静岡市の小嶋善吉市長は22日、東京都内の政府の地方分権改革推進委員会に宮脇淳事務局長を訪ね、一級河川の安倍川について、国が持つ管理権限を政令指定都市静岡市に移すよう求めた。(平野誠也)
 一級河川をめぐり、同委員会は安倍川を含め、一都道府県内で完結する53水系などの都道府県への移譲を、28日にまとめる福田康夫首相への第一次勧告に盛り込む方針。これに対し、国土交通省は53水系のうち、20水系程度に限り、都道府県に移管する考えを表明。都道府県にどれだけ移すかが焦点となっている。一方、静岡市国土交通省説明資料は、安倍川は一政令市内で完結する唯一の一級河川だとして、管理に必要な税財源とセットで、県ではなく市に移すよう求めた。これに対し、宮脇事務局長は「(自治体の声を)制度に組み込んでいく努力をするのがわれわれの使命。(要請は)非常にありがたい」と述べたが、安倍川については言及を避けた。小嶋市長は面会後、「(一級河川は)国の権限、財源移譲のモデルになる。(安倍川が市に移管すれば)まちづくりとか市民と協働した管理などいろんなことができる」と述べた。

同記事では、静岡市長が地方分権改革推進委員会事務局に対して、静岡市域内で完結する安倍川の管理権限を静岡市へ移譲するよう要請したことを紹介。
都道府県区域内を完結する一級河川の管理権限については、都道府県へ移譲する方針であることが、5月14日に開催された「大臣折衝」*1によって確定された。同折衝では方針であり、より具体的な内容については、新聞記事等を見ている限りでは把握できなかった。その後、5月22日に開催された第48回委員会では、同折衝結果を受けてか、国交省から道路と河川に関する報告があり*2、移譲基準等が示された。そして、河川に関しては、該当する53水系のうち「氾濫した場合に流域に甚大な被害が想定される水系」「広域的な水利用や電力供給のある、または全国的に価値の高い環境を保全すべき水系」「急流河川等の河川管理に高度な技術力が必要となる水系」を除いた水系(53水系中約40%)が移譲候補(3頁)である考えが示された。同意見の展開を見ると、具体的な水系が提示されず数値が示されることで、いわゆる「アンカリング効果anchoring effect」*3に捕らわれる可能性があるが、これを回避するためにも、同委員会では、従前どおり都道府県への一括移譲とするか、または、同基準を受容するか、限定例示方式を是とするかをも含めて、『第一次勧告』提出直前まで同勧告での書きぶりは検討されることとなるのだろう*4
道路と河川は積年の熱をもった審議課題ではあるものの、「大臣折衝」によって定められた方針という「枠づけ」がある以上、提出期限という「時間」以内で、一定の内容が確定するかとも思われる。まさに決着には「時こそが重要」*5である。ただ、同記事にある政令指定都市問題にまでは踏み込むことはどうだろうか。熱をもった審議課題であるがゆえに、政令指定都市に関しても一定の考慮は示されることはあっても、これまでの各種地方自治制度に関する論議を思い返しみると、政令指定都市は「例外的事例」として議論の枠外におかれること(議論の俎上にも載らないこと)も想定されうる(特に、市域内完結する事例が、静岡市1市であればより一層その傾向が強まるか)。改革はまずは確実な成果に至ることを優先とすべきという考え方に立てば、例外は例外(正確にいえば「特例は特例」)となることも分からないでもない。ただ、これにより、金井利之先生の分析概念に倣えば「政令市都市制度の希釈化」*6都道府県との対比のなかで生じるかとも思われる。
政令指定都市であることの制度的な特性、いわば大都市の制度としての「濃縮化」を図るためには、残された限られた時間内で審議されても良い課題かとも思う。政令指定都市に関する同委員会での対応を要観察。

*1:朝日新聞(2008年5月14日付)「県境またがぬ1級河川、管理を都道府県に委譲へ

*2:第48回地方分権改革推進委員会(2008年5月22日開催)資料1「国土交通省提出資料」3〜4頁

*3:マッテオ・モッテリーニ『経済は感情で動く』(紀伊国屋書店、2008年)67頁

経済は感情で動く : はじめての行動経済学

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*4:読売新聞(2008年5月23日付)「国交省、道路・河川管理の移譲基準示す…地方分権委は批判的

*5:Christopher Pollitt, Time, Policy, Management, Oxford University Press,2008,p.1

Time, Policy, Management: Governing With the Past

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*6:金井利之『自治制度』(東京大学出版会、2007年)178頁

自治制度 (行政学叢書)

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