朝の授業開始前の時間を読書の時間に充てる「朝の読書」運動の佐賀県の実施率(8月末現在)が、小中高校で92%と全国で1位だったことが分かった。学校現場では「集中力がついてきた」「落ち着いた雰囲気で授業を始めることができる」などと読書の効用を指摘。上級生や保護者による読み聞かせなど取り組みにもバリエーションが出てきている。
 出版取次大手のトーハン(東京都)内に事務局がある朝の読書推進協議会のアンケート調査では、ほかに90%台は鳥取県(91%)だけで、全国平均は68%にとどまった。県教委が実施した調査では、小学校の朝の読書実施率は98・3%で授業での読書活用も含めると100%。中学校は97・9%、高校も89・2%と高率を誇る。県教委では10年ほど前から小中高校に対し「10分間読書運動」を推奨し、朝や昼休み、国語の授業時間などで10分間の読書時間を設けるよう呼び掛ける。学校教育課では「施策として徹底してやっているわけではなく、クラスが落ち着いた雰囲気になる、問題行動が少なくなったなどの効果が口コミで広がった結果では」と分析する。城北中(佐賀市)では、全校朝会などがある火曜日を除いて毎日、15五分間の朝の読書時間を設定。数年前からは地域住民の有志が学級ごとに読み聞かせを月2回実施しており「ざわついていた朝の雰囲気が劇的に落ち着いた」と石丸和人校長。「読書の影響かどうか分からないが、全国学力テストの国語の読解力を問う問題などで比較的良い結果が出ている」という。学校図書活動の充実を図ろうと、県教委では児童生徒への読書指導などに当たる図書館支援スタッフ事業を昨年度から展開するなどしており「読書習慣の浸透をさらに促したい」としている。

同記事では,佐賀県において,「朝の読書」実施率が92%であったことを紹介.調査主体は,朝の読書推進協議会.調査結果については,朝の読書推進協議会HPを参照*1.同取り組みに関しては,予想以上の高い割合で実施されていることに驚き.一方,「朝の読書」の時間中,教師の皆さんはどのよう関与されているのなあ,とふと思う.
そこで,杉並区立和田中学校校長を務められた藤原和博さんの『誰が学校を変えるのか』(ちくま文庫)を読んでみると,同中学校の当初の頃は,「担当だけが教室に行き,その他の先生は職員室でコーヒーを飲んだり印刷室で1時間目の授業のプリントを刷ったりしていた」との観察結果を記されており,学生は「朝読書」が習慣化するなかで,「読書しない教師」もいるともいう.皆さんお忙しいのだろうが,他の学校ではどうなのだろうか.同校では「本を読む大人の姿を見せることが子供に読書を習慣づけるためには大事だから,教室で立ち読みしてもらうことした」*2と改めらたという.同記事では,佐賀県では「読書指導」のために「図書館支援スタッフ事業」を整備したともあるが,専門スタッフを新たに整備するほど,複雑な取り組みが進められているのだろか,興味深い.
杉並区立和田中学校に対する「信頼できる公認会計士―研究グループによる改革の「決算書」」(89頁)と,藤原和博さん自身が仰る『杉並区立「和田中」の学校改革』(岩波書店)では,その結論部分で,同校の改革結果を通じて,「教師の意識や教育実践が大きく変わらなくても,生徒の学校経験をかえる手だてがあることを和田中の学校改革は教えてくれた.しかし,教育の専門家である教師が改革の主人公ではなくなる可能性も,そこには残されている」*3とも指摘する.興味深い分析結果.
なお蛇足.同記事にもある「全国学力・学習状況調査」の結果に「朝の読書」が及ぼした影響を把握することは,実践的にも,研究的にも興味深い指摘.ただ実際には,その証明がなされなければならないようにも思う.同調査結果による格差が,単なる興味本位の比較となることなく,情報共有の下で,より実績と根拠に基づき(Evidence-Based*4),どのような要因によって生じたかを多角的に分析されるとことは首長部局・行政委員会間での鞘当てを超えて,より実質的な対策検討に貢献できるかと思うのだが.

*1:朝の読書推進協議会HP「「朝の読書」全国都道府県別実施校数一覧

*2:藤原和博『誰が学校を変えるのか』(ちくま文庫,2008年)202頁

*3:苅谷剛彦・清水睦美・藤田武志・堀健志・松田洋介・山田哲也『杉並区立「和田中」の学校改革』(岩波書店,2008年)88頁

*4:Urban InstituteHP(Publications),Terry Dunworth, Jane Hannaway, John Holahan, Margery Austin Turner‘Beyond Ideology, Politics, and Guesswork:The Case for Evidence-Based Policy (revised 2008)