東京都江東区教委は来年度から、区全域から希望校を選択できた小学校の「学校選択制度」を変更し、住所に応じた通学区域の指定校への入学を原則とすることを決めた。区教委は「地域の連帯感が希薄になるという課題を解決するため」と説明している。選択制の事実上の廃止は極めて異例で、文部科学省教育制度改革室は「聞いたことがない」としている。 
 江東区は二〇〇二年度から小中学校の選択制度を開始。新一年生の保護者は、マンション急増などで区域外から受け入れる余裕のない学校を除き、入学する学校を選べた。同区では本年度、小学校で22%、中学校で37%の児童・生徒が指定校以外に入学。保護者へのアンケートでは、選択制に賛成する人が六割を占めた。一方、町会役員などから「入学式や卒業式に出席しても、自分たちの町の子が少ないのはさびしい」など、地域の核となる小学校を中心としたコミュニティーの崩壊を危ぶむ声も寄せられた。区はこうした声を受けて検討し、小学校に限って原則指定校入学に戻すことにした。指定校以外で選べるのは、「原則として徒歩で通える学校」に限られる。中学校はこれまで通り全区域から選択できる。区教委によると、小学校の場合、「より近い」ことを理由に、選択を希望する保護者の約八割が隣接区域の学校を選んでいる。山岸了(さとし)学務課長は「小学校の場合、特に地域とのかかわりを重視し、近所の学校に歩いて通うというのが基本で良いのではないか」と話している。東京二十三区では、十九区で学校選択制を導入している。小学校では、全区域から選ぶ方式を採る区もある一方、歩いて通える隣接区域のみを選択対象としている区もある。

前橋市教育委員会は26日の臨時会で、現在計66ある市立小中学校で04年度に導入した学校選択制を、10年度を最後に廃止する方針を決めた。11年度以降、原則として市教委が指定した学区内の学校に通学するよう改める。市教委事務局は「特色ある学校づくりが進むといった利点もあるが、児童生徒数に大きな偏りが生じるなどの弊害も目立ってきた」と説明した。
 市教委によると、学校選択制の導入から5年目を迎えた現在、少子化などの影響もあるが、中学校では最大1学級(40人)ほど生徒が増えたり減ったりしている学校がある。減少した中学校では部活動や教科担任制に支障が生じている例もあるという。そこで、11年度からは、小学生は自宅から1.5キロ以内、中学生は同2キロ以内にある学区内の学校に通うように改める。ただし、学区内の学校までの距離が小学生で1.5キロ超、中学生で2キロ超の場合で、かつ、学区内の学校までの直線距離の2分の1以下の近さに学区外の学校がある場合には、学区外の方に通うこともできる。あわせて、制度変更の影響が大きいとして、すでに選択制を利用して在学中の小学生を対象に11年度以降、経過措置も設ける。具体的には(1)その児童の弟や妹が希望した場合、同じ小学校に入学できる(2)その児童が希望した場合、選択制を利用して入学した小学校の学区内にある中学校に進学できる――の2点。

両記事では,江東区では2009年度,前橋市では2011年度から,これまで採用してきた学校選択制を「廃止」する予定であることを紹介.学校選択制における5種類の制度選択肢*1のうち「自由選択制」(当該市(区)町村内のすべての学校のうち,希望する学校に就学を認める制度)から,江東区では原則は指定校入学制度としつつも「徒歩で通える学校」,前橋市は「自宅から1.5キロ以内」(前橋市)のように,学校選択の空間的領域を限定条件化した「ブロック選択制」(当該市(区)町村内をブロックに分け,そのブロック内の希望する学校に就学を認める制度)ともいえる制度を変更した選択肢は並置することになる模様.
現在,文部科学省に置かれている中央教育審議会の初等中等教育分科会では,「小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会」が,2008年7月より設置され*2,「少子化等の進展を踏まえた今後の小・中学校の設置・運営」の観点から,学校選択制度の現状把握を中心としたその課題把握(制度実施の意図と成果,学校と地域との関係,学校選択者数と予算措置の関係,就学校指定変更等)*3について,審議を進めている.国レベルでのファクト・ファインディングを経て,8月末の作業部会で「検討項目」が整理され始めたばかり*4のなかで,自治体側からは制度の再選択の動向が現れつつあるのだろうか.
同作業部会のなかでは,個人的には,小中学生の何れも学区の外れから通学し,例えば小学生の頃は毎日片道30分超を徒歩で通学していたことを思い出すと,あの頃の自分自身はどうだったのだろうか,という関心から,第2回作業部会で提出された朝倉隆司先生による調査研究結果は興味深く拝見させて頂く*5
ただ,直接的に学校選択制度の現状の「ファクト」としては,同作業部会が実施した262市区町村教育委員会(内,学校選択制導入:119)と17政令指定都市教育委員会(内,学校選択制導入:9)を対象にしたアンケート調査結果が興味深い結果といえる.具体的には,50自治体では「課題は特にない」*6との回答を示しており,最も多い結果にある.そして,第一記事でも紹介されている,学校と地域と関係に関しては,同調査の結果限りではあるが,「学校と地域との連携が希薄となった」とする回答する自治体は8自治体と,調査対象数から見れば余り多いとは言えない結果にはなっている.調査対象が限定さてれはいるものの,同調査結果を見る限りでは,同制度に対して懸念されていた事柄も,現在までには余り顕在化されてはいない状況にあるともいえなくもないことにもなる.ただ,同記事のように,個別自治体の状況を,より微細に調査をすれば種々な課題も観察しうるのだろうか.要観察.
ただ,「各人の個性が重要であり,意見や行動様式の多様性が重要」*7であり,「生徒側に学校選択の自由を与え」」*8る考えなどから,各自治体で指定校制度から,学生に「離脱(Exit)」選択肢を制度化したとすれば,一度許容された自由である「離脱(Exit)」を行使できなくなることにより学生側の緊張を増幅することや学校の多様性を縮減するなどの蓋然性も考えられなくはい.そのため,両自治体のように,一足飛びには指定校制度への「逆コース」と路線変更することなく,他の選択制度の選択肢を組み合わせつつ(ただし,選択する空間領域に関しては,議論が分かれる部分もあるとは考えられるが),「離脱と発言の組み合わせ」*9を組み込むことが適当とも思わなくもない.今後の他の自治体における制度動向も要観察.

*1:文部科学省HP(小学校・中学校・高等学校学校選択制等について)「よくわかる用語解説

*2:文部科学省HP(初等中等教育分科会(第61回:2008年6月16日開催)議事録・配付資料)「資料5小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会の設置について(案)

*3:文部科学省HP(小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会(第1回:2008年7月2日開催)「資料6小・中学校の設置・運営の在り方に関する論点(例)

*4:文部科学省HP(小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会(第6回:2008年8月27日開催)「資料4学校選択制に関する検討項目

*5:文部科学省HP(小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会(第2回:2008年7月15日開催)「資料3 朝倉隆司氏発表資料

*6:文部科学省HP(小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会(第5回:2008年8月21日開催)「資料4学校選択制の状況について

*7:ミル(山岡洋一訳)『自由論』(光文社,2006年)234頁

自由論 (光文社古典新訳文庫)

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*8:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)170頁

ホーンブック 地方自治

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*9:A.O. ハーシュマン『離脱・発言・忠誠』(ミネルヴァ書房,2005年)50〜59頁

離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)

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