小諸市は、小諸厚生総合病院(320床)に今の市庁舎一帯に移転してもらい、空いた病院の建物に市役所機能を移す「街再生」案を打ち出した。病院を経営するJA長野厚生連との正式協議はこれからだが、市は、老朽化に伴う市庁舎の整備▽同病院の存続▽市街地の活性化――の三つの課題が一挙に解決できる方策としている。1日付で建設部に「街再生準備室」を設けて準備に入った。(伊東大治)
 市の案はこうだ。(1)市役所機能を一時、南に約600メートル離れた市所有の「旧大型商業施設VIO」へ移す(2)築45年の市庁舎や代替施設がある市民会館、移転予定の図書館など一帯の公共施設を取り壊し、厚生連に約1万8千平方メートルの病院用地を提供する(3)病院の新築移転後、VIOそばにある同病院の建物と土地(約1万2500平方メートル)をもらい、改装して市庁舎にする。市はさらに、病院の新築移転費として厚生連に30億円を支援する考えだ。実現すれば、小諸駅から直線距離で約300メートルの位置に病院ができ、現在1日1400人〜2千人とされる病院利用者が市中心部の商店街を利用しやすい状況が生まれる。
 市庁舎を新築した場合は試算で40億円がかかるが、同病院建物を市庁舎として活用した場合は数億円の改装費で済むという。また、老朽化し、手狭になっている同病院にも、より広い用地を提供できるとしている。ただ、厚生連は隣の佐久市にも佐久総合病院(821床)を持つ。この病院を分割し、佐久市庁舎そばのツガミ跡地に「基幹医療センター」の建設を目指す再構築計画が難航の末、2月に動き出したばかりだ。小諸市の考えについて、厚生連の盛岡正博専務理事は「正式にはうかがっていないが、基幹医療センターとの調整が必要になってくる。ただ、厚生連の病院について考えていただき、感謝している」と話した。
 芹沢勤市長は「(厚生連がツガミ跡地を取得した)4年前から、小諸厚生総合病院の救急医療機能が縮小されるのではないかと心配し、考えてきた」と話す。市民や周辺自治体などに説明し、厚生連に働きかけて理解を得たいとした。

同記事では,小諸市において,現在の市庁舎と現在の病院と間で,代替化を図る方針を同市が構想していることを紹介.2009年3月26日付の信濃毎日新聞*1では,短い記事として紹介されていた同方針,全国記事としては大きめに紹介.
同方針については,同市HPを参照*2.同市が設定されている「市役所庁舎の老朽化及び耐震対策に伴う整備」,「小諸厚生総合病院の再構築による救急医療体制の充実」,「市街地活性化」の3つの課題を三位一体で取り組む方策.資料のみを拝読すると,同記事もある佐久総合病院の「再構築」による「小諸厚生総合病院の統合や救急医療機能の縮小」への対応としての方針提案の色彩が濃いのだろうか.
2008年12月7日付の本備忘録で妄想した,本備忘録の「お馴染み」の観察課題のひとつ,「庁舎管理の行政学」の観点からすれば(そんな観点が,一般的に共有されているのかは不明ですが),「第1章:建築と維持のポリティクス」に該当(か).庁舎を自治体区域内の何れに設置するかは,極めて政治的,経済的な判断の対象.特に,中心市街活性化の一連の取り組みのなかで,庁舎設置(移転)の議論を扱う場合,昨今では「コンパクトなまちづくり」との兼ね合いがひとつの争点とも考えられそう.つまり,「公共施設設置主体としての地方公共団体」が,「1990年代郊外移転を積極的に行った都市の中心市街地がその後衰退していき,他方で,経済不振でバブル期に郊外移転を行えなかった市などが,逆に,中心市街地の賑わいを維持してきた」*3とも観察分析されるなかで,その照り返しということではないだろうが,「サブの拠点を含めた中心部のある程度まとまった範囲に機能を寄せて,そこに都市機能や,投資,サービスが誘導されるような都市構造」*4への路線が強調されている.同路線を目標とおいた場合,「コンパクト」に集約される「機能」として,何を選別(集約)するかがまさに争点となり,「庁舎機能」もその一つとなる.その場合,残置(新築・改修)の選択肢か,はたまた,2008年4月4日付及び同年7月15日付の両本備忘録でも言及した「郊外型庁舎」化の選択肢が想定される.
市町村合併に対する古典的なデメリットとして,「行政区域が広すぎてきめ細やかな行政サービスが行えない」*5が指摘され,いわゆる「役所が遠くなる」論からは,庁舎の設置については一定の向心力が生じるようでもあった.ただ,同記事を拝読すると,実際に自治体を「コンパクト」化した場合(更に,各種施設の配置を再編等を図った場合)には,物理的な意味での庁舎には,遠心力の慣性が生じるようにも観察できる.もう少し,観察を続けて,考えてみたい観察課題.

*1:信濃毎日新聞(2009年3月26日付)「小諸市役所、厚生総合病院移転目指す

*2:小諸市HP(小諸市の施策・計画まちづくり市役所庁舎整備と街再生について)「広報こもろ臨時版」

*3:大橋洋一『都市空間制御の法理論』(有斐閣,2008年)45頁

都市空間制御の法理論

都市空間制御の法理論

*4:澁谷浩一「都市再生と中心市街地活性化の施策」首都大学東京・都市教養学部都市政策コース監修『都市の活性化とまちづくり:制度設計から現場まで』(公人の友社,2009年)26頁

*5:小西砂千夫『市町村合併のススメ』(ぎょうせい,2000年)38頁

市町村合併ノススメ

市町村合併ノススメ