喫煙による健康被害への意識の高まりにあわせ、条例で繁華街などに路上喫煙を禁止する地区を設ける自治体が増えている。違反金(過料)として1000〜2000円を徴収するところが多いが、違反者が「現金がないのであとで払う」などと言い訳をして、そのまま支払いを逃れるケースが相次ぎ、自治体が徴収に手を焼いている。
 不心得者が8割に上る自治体もあり、「このままでは制度そのものが崩壊しかねない」と、〈吸い逃げ〉対策の強化に乗り出すところも出てきた。2007年10月から、御堂筋で違反金を徴収している大阪市の場合、先月までの違反者は1万3561人。このうち、5・4%にあたる735人が「今、現金の持ち合わせがない」などとして後日、銀行振り込みなどで納付することを選んだ。しかし、6割強の459人は、2週間の期限が過ぎても支払わないまま。デタラメの住所や電話番号を書いているために、督促状が届かず、電話もつながらない人が4割もいる。京都市では、河原町通などが対象。昨年6月から今年3月までに、後日の納付を約束した57人のうち33人が未納。神戸市でも昨年7月から先月までの違反者322人のうち、229人が期限内に違反金を納めていないという。
 02年11月に徴収を開始、先駆けとなった東京都千代田区や、昨年10月から徴収を始めた兵庫県姫路市では未納者率が8割に達する。千代田区では現在、未収金が約1970万円もある。各自治体の担当者によると、徴収が難しいのは、▽うその電話番号や住所を告げられて追跡できない▽対象者が多く、手が回らない▽差し押さえに動くにも少額で効率が悪すぎる――などが理由。身元確認に欠かせない身分証の提示も任意で応じてもらうしかない。一方、違反者からは「禁止エリアとは知らなかった」「説明がなかった」などという言い分が多く、こうした不満が、吸い逃げの背景となっている可能性もある。このような状況から、大阪、京都、神戸の3市はこの夏、合同の対策会議を開いて対応を協議することにした。徴収に対する理解を求めるため、今後、共通の啓発ポスターも作るなどして、対策を強化することにしている。

同記事では,路上喫煙に対する過料(違犯金)を設定している自治体において,その徴収が困難な状況にあることを紹介.同記事では,千代田区広島市,札幌市,名古屋市,芦屋市,大阪市京都市,神戸市,姫路市千代田区における,違反者数と路上喫煙に対する過料の徴収状況を一覧表で掲載.
自治体の徴収状況は,次の通り.札幌市(違反者49,935名,後納選択者数12,353名,未納者数9,882名,「吸い逃げ率」80.0%),広島市(違反者1,160名,後納選択者数66名,未納者数28名,「吸い逃げ率」42.4%),札幌市(違反者586名,後納選択者数149名,未納者数96名,「吸い逃げ率」64.4%),名古屋市(違反者14,508名,後納選択者数3,261名,未納者数2,121名,「吸い逃げ率」66.0%),芦屋市(違反者189名,後納選択者数33名,未納者数24名,「吸い逃げ率」72.7%),大阪市(違反者13,561名,後納選択者数735名,未納者数459名,「吸い逃げ率」62.4%),京都市(違反者480名,後納選択者数57名,未納者数33名,「吸い逃げ率」57.9%),神戸市(違反者3,051名,後納選択者数322名,未納者数229名,「吸い逃げ率」71.1%),姫路市(違反者465名,後納選択者数74名,未納者数60名,「吸い逃げ率」81.1%).
ただ,同記事からは,千代田区ではこれまでの累計では約76%がその場で過料を納付されたことが分かる.同区が制定した生活環境条例の施行半年間でには,過料処分2,583件のうち,その場で納付された方が1,799名(約70%)*1であったこと(いわば,「払い逃げ」)からすると,全体的にはやや納付率増加にあるとも窺うことができなくもなさそう.
同記事を拝読すると,「新しい政策の多くは地方自治体に順次採用され全国的に広がっていく」「現象」としての「政策波及(policy diffusion)」*2は,新規の制度波及するがゆえに,「公的権限発動に消極的な日本における行政執行実態に照らしても,きわめてめずらしい」*3とも評される過料処分は,「自治体行政現場」では「「いざというとき」に動けない」(34頁)ため,「多くの費用を要する現行の実施体制を継続せざるをえない」(33頁)という運用上の課題が「同型化(isomorphism)」*4が生じているように観察することができ,興味深い.
ただ,過料は「条例の履行確保手法」*5としての特性があるとすれば,徴収が目的ではなく,同過料を設定した際の条例上の趣旨を確保し,「行政上の誘導」*6に至ることこそが目的とすれば,これもまた現実的な判断とも考えられなくもない.そのためにも「選択の自由を維持しつつ,人々の厚生を促進する方向に私的・公的制度を設計」するような「デフォルト・ルール」*7が適当か,考えてみたい.

*1:千代田区生活環境課編『路上喫煙にNO!』(ぎょうせい,2003年)150頁

路上喫煙にNO!―ルールはマナーを呼ぶか

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*2:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶応義塾大学出版会,2002年)37頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

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*3:北村喜宜『行政法の実効性確保』(有斐閣,2008年)31頁

行政法の実効性確保 (上智大学法学叢書)

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*4:DiMaggio Paul J.and Walter W. Powell.1991 in Walter W. Powelland Paul J.DiMaggio,The New Institutinoalism in Organizational Analysis,Chicago UP,66

The New Institutionalism in Organizational Analysis

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*5:北村喜宜「行政罰・強制金」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅱ』(有斐閣,2008年)139頁

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

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*6:中原茂樹「行政上の誘導」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅱ』(有斐閣,2008年)203頁

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

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*7:依田高典・後藤励・西村周三『行動健康経済学』(日本評論社,2009年)153頁

行動健康経済学―人はなぜ判断を誤るのか

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