• 鈴木潔「自治体における不祥事対応の現状と課題」『都市とガバナンス』Vol.13,2010年3月,86〜101頁.

都市とガバナンス 第13号

都市とガバナンス 第13号

覚せい剤を使用したとして、大阪府警東署は23日、大阪市浪速区大国3、大阪市職員、吉岡徹容疑者(26)を覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕した。大阪市の職員や教員が同法違反容疑で逮捕されるのは今年度5人目。薬物汚染など不祥事の続発を受け、市は再発防止策を検討するプロジェクトチーム(PT)を10日に立ち上げたばかりで、綱紀の緩みに対する市役所全体の自覚が問われそうだ。
 逮捕容疑は3月4〜14日、覚せい剤を使用した疑い。東署によると、吉岡容疑者は「大阪市西成区で売人から買い、13日夜に自宅で使った。1年ほど前からやっている」と供述している。東署によると、14日午後5時半ごろ、大阪市中央区松屋町住吉の路上で、パトロール中の警察官が男女とやり取りしていた吉岡容疑者を発見。路上で何かを売買しているように見えたため職務質問しようとしたところ、同容疑者らは逃走した。警察官らが追跡して任意同行を求め、東署で尿検査をしたところ、陽性反応が出たという。市によると、吉岡容疑者は2004年採用。中央卸売市場南港市場で技術作業員として勤務していたが、昨年9月から体調不良を理由に欠勤が目立つようになり、今月17日に退職願を出していた。

本記事では,大阪市の元職員の覚醒剤使用の疑いによる逮捕を紹介.
本記事でも紹介されている,同市における「服務規律確保プロジェクトチーム」.2010年3月11日付の毎日新聞においても,「覚せい剤使用や市税の滞納,斎場での「心付け」の受け取りなど,市職員の不祥事続発を受け,対策を検討」*1体制として,その設置が報道されている同チーム.同チームの詳細については,同市HPを参照*2.同チームでは,「課題ごとの具体的な対応策等を掘り下げて検討,具体化するため」に,「大阪市全般における服務規律確保徹底方策の検討」と「服務規律の確保に向けた職員の士気高揚策」を「検討」する「服務規律確保推進チーム」,「斎場事案の全容解明と改善及び防止策」を「検討」する「環境局斎場事案特別調査チーム」,「事業所職員による不祥事発生根絶に向けた具体的方策」を「検討」する「事業所職場服務規律刷新チーム」*3を設置.本記事においても言及される「綱紀の緩み」と同チームの設置による服務規律の確保と関係性は,必ずしも判然とはしないものの,「自治体における不祥事対応」について考えさせられる課題.
同課題を考える上では,鈴木潔先生が取りまとめられ,財団法人日本都市センターが年2回刊行されている『都市とガバナンス』Vol.13(2010年3月)にて掲載された,「自治体における不祥事対応の現状と課題」*4という論攷は,非常に勉強になる.同論攷では,「不祥事」とは「時々の状況に依存」している概念でありつつも「組織が致命的なダメージを受けること」があり,そして,「企業だけでは自治体においても同様の危機意識は広まりつつある」*5との問題認識から,「組織」,「プロセス」,「手法」の「3つの側面から」,「アンケート調査」及び「京都市*6,「奈良市*7,「福井市*8,「鳥取市*9への「現地調査」の結果を踏まえて,論述.
同論攷で分析されている「アンケート調査」の結果において,下名が個人的に興味深く拝読した個所は,「不祥事の原因認識」*10と「各手法の有効性に関する認識」*11を取りまとめた部分.原因の認識としては,同論攷では,前者の調査結果から「職員としての資質の欠如にあるとの意見が突出して多い(72.6%)」*12ことを指摘.同論攷では,「システム」と「ヒト」*13との間での帰責問題に関しては,アメリカにおける認識との対比において,「内部統制やコンプライアンスという言葉が積極的に受け入れられているが,日本の行政現場の実態とは,ズレがあるように思われる」*14との分析が示されている.
一方で,後者の調査結果からは,「業務管理体制の整備強化」が45.0%と最も多く,次いで,「職員倫理研修の充実強化」が38.1%とあり,「自治体内部における実務・運用の改善策が有効であると認識される割合が高い」*15とされている.いわば,その帰責の職員個人へ認識が図られつつも,特定個人に帰責を止めることなく,「分散化」*16的政策対応による,「不作為過誤回避」*17が選択されている様子を窺うことができそう.ただ,この傾向性,同論攷の分析によると,「人口別」の分析結果を踏まえると,「大規模都市では「制度・運用といったシステムの改善が有効」との認識」,方や「小規模都市では「個人の資質が問題でありシステムを変えても解決しない」との認識」が「それぞれ優勢な傾向にあるのかもしれない」*18との見解が示されている.なるほど.
同論攷では,「システム面での内部統制だけでなく,パーソナルな内部統制も依然として重要」*19との認識が提案されている.例えば,その場合,「眼差と配慮」*20が配置された「システム」としての「パーソナル」な同統制の形態として設計できるかと考えてみると,興味深そう.非常に考えさせて頂く内容が多い論攷.

*1:毎日新聞(2010年3月11日付)「大阪市:不祥事根絶へ対策チーム 市長「全国一、規律厳格に」/大阪

*2:大阪市HP(大阪市市政人事・給与人事)「第1回「服務規律確保プロジェクトチーム」委員会・幹事会合同会議を開催しました

*3:大阪市HP(大阪市市政人事・給与人事:「第1回「服務規律確保プロジェクトチーム」委員会・幹事会合同会議を開催しました)「資料1 「服務規律確保プロジェクトチーム」の設置について(案)」1〜2頁

*4:鈴木潔「自治体における不祥事対応の現状と課題」『都市とガバナンス』Vol.13,2010年3月,86〜101頁

*5:前掲注4・鈴木潔2010年:86頁

*6:同市の「不祥事対応の組織」については88頁,「手法」については93〜95頁を参照

*7:同市「組織」については,前掲注4・鈴木潔2010年:88〜89頁,「手法」は,前掲注4・鈴木潔2010年:95〜97頁,を参照

*8:同市の「組織」は前掲注4・鈴木潔2010年:89頁,「手法」は前掲注4・鈴木潔2010年:97〜99頁,を参照

*9:同市の「組織」は,前掲注4・鈴木潔2010年:89頁,「手法」は,前掲注4・鈴木潔2010年:99〜100頁を参照

*10:前掲注4・鈴木潔2010年:91〜92頁

*11:前掲注4・鈴木潔2010年:92頁

*12:前掲注4・鈴木潔2010年:91頁

*13:前掲注4・鈴木潔2010年:91

*14:前掲注4・鈴木潔2010年:91〜92頁

*15:前掲注4・鈴木潔2010年:92頁

*16:手塚洋輔『戦後行政の構造とディレンマ』(藤原書店,2010年)288頁

戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷

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*17:前掲注16・手塚洋輔2010年:24頁

*18:前掲注4・鈴木潔2010年:92頁

*19:前掲注4・鈴木潔2010年:101頁

*20:大森彌『官のシステム』(東京大学出版会,2006年)67頁

官のシステム (行政学叢書)

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