横浜市は10日、自己負担額平均約10%の引き上げなどを盛り込んだ敬老特別乗車証(敬老パス)制度改正案を17日開会の市会第2回定例会に提出する方針を固めた。市では、負担額の引き上げ幅を極力抑制したとしている。
 改正案では、市税負担を2011年度の歳出予算額88億5千万円に固定する。利用者の自己負担額は所得区分を見直し、現行5段階から8段階へと細分化、平均約10%の引き上げを行う。所得区分別で最大の引き上げ率は約25%。改正後は当分の間、この負担額を維持する。高齢化が進むにつれて敬老パスの利用者が増え、市の負担が増え続ける中で、市は制度の見直しを迫られていた。市費の負担に上限を設けることで、持続可能な仕組みにすることが狙い。市は制度の改正に向け2009年12月、3通りの案を市会に提示。今回はそのうちの1案についてさらに見直しを加え、市の負担額を増やし、利用者負担を極力抑える案にしたという。

本記事では,横浜市における敬老特別乗車券制度の見直し方針について紹介.同制度の見直しの審議過程に関しては,同市HPを参照*1
「東京都に続き国に先駆けて実施」された「バスの無料化」*2は,導入当初を振り返って飛鳥田一雄は「老人の無料パス」を「発行したのはいいんだけど,おじいちゃん,おばあちゃんが,揺れる車内でよろけ通し.ところがすぐそばの席に若者が平然と座ってるんだ.「仏つくって魂いれず」だね」*3とも評された同制度.2002年には「希望制」,2003年には「自己負担制」*4が導入され,現在では,「横浜市営バス全線」と「市内の民営バス路線」の利用に際し,同市の高齢者が「70歳」の「誕生日を迎えられた時」の所得に応じて,「生活保護受給者・障害者等」であれば「無料」,「当該年度の市民税非課税者」は「3,200円」,「合計所得金額が250万円未満の市民税課税者」は「6,500円,「合計所得金額が250万円以上,700万円未満の市民税課税者」は「8,000円」,「合計所得金額が700万円以上の市民税課税者」は「19,500円」の「利用者負担額」により,「敬老特別乗車証」を「交付」される同制度.同市の高齢者のうち,平成20年度は「63.13%」,平成21年度には「61.84%」*5に交付.
同制度に関しては,同市に設置された「横浜市敬老特別乗車証制度のあり方検討会」が「最終まとめ」を2007年11月に取りまとめられており,「利用者・事業者・行政(市費)の三者の負担で支え合う制度として,現行の給付水準や費用負担の見直しなどを行う必要」*6が提案されている.2010年9月から10月に「20歳以上の市民30,000人を年代別の構成比に応じて無作為抽出」で実施された「敬老特別乗車証交付事業に関する市民アンケート結果」(回答率50.7%)では,同制度の認知度,事業費に占める利用者負担の範囲,利用者負担の5段階の区分,交付対象者の年齢,今後の制度のあり方を尋ねており,それぞれ最も多い回答を見てみると,認知度では「額は知らなかったが知っていた」が62%,事業費に占める利用者負担の範囲が「小さいと思う」が44%,利用者負担に関しては「利用回数に応じて決める」が34%,年齢設定は「今のままでよい」が59%,今後の制度のあり方としては「市税負担を減らす工夫を」が40%*7という結果になっている.本記事を拝読すると,制度の持続性に配慮しつつ,まずは「市税負担」を固定されたうえ,「利用者の自己負担額は所得区分を見直し」「現行5段階から8段階へと細分化」される案として,議会に提出される模様.
「いったん制度ができあがってしまうと,全く新しい制度へと大幅に変更することは社会的に多大なコストをしいること」になり,また「制度による利益を得るアクターは制度維持しようとする」*8とも観察されるなか,漸進的に制度変更が進められてきた同制度.今後の審議状況は,要経過観察.

*1:横浜市HP(組織健康福祉局分野別目次高齢者福祉敬老特別乗車証交付事業について(概要))「横浜市敬老特別乗車証制度のあり方の検討について

*2:高村直助『都市横浜の半世紀』(有隣堂,2006年)232頁

都市横浜の半世紀―震災復興から高度成長まで (有隣新書 (62))

都市横浜の半世紀―震災復興から高度成長まで (有隣新書 (62))

*3:飛鳥田一雄『生々流転 飛鳥田一雄回想録』(朝日新聞社,1987年)156頁

*4:横浜市HP(組織健康福祉局分野別目次高齢者福祉敬老特別乗車証交付事業について(概要)横浜市敬老特別乗車証制度のあり方の検討について)「敬老特別乗車証制度のあり方について最終まとめ」(横浜市敬老特別乗車証制度のあり方検討会,平成19年11月)1頁

*5:横浜市HP(組織健康福祉局分野別目次高齢者福祉)「敬老特別乗車証交付事業について(概要)

*6:前掲注4・横浜市(敬老特別乗車証制度のあり方について最終まとめ)5頁

*7:横浜市HP(組織健康福祉局分野別目次高齢者福祉敬老特別乗車証交付事業について(概要))「敬老特別乗車証交付事業に関する市民アンケート結果(速報)」(健康福祉局高齢健康福祉課,平成22年12月24日)

*8:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),177頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

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