地方財政のヒミツ

地方財政のヒミツ

本日は,昨日に続き,購入後長く鞄の中に入れて細々と読んでいた同書.
大胆なタイトル,妥当な内容.読み終えるとそんな印象を持つ本書.兎角,地方財政制度は「批判する」(鄱頁)論調が多い.しかし,地方財政制度が「何を目指し,何を担っているか,その際に技術的に難しい課題は何かを,十分に見ようとしない」(鄱頁)と著者は述べる.
例えば,「地方交付税算定の簡素化」.簡素化の動機に「総額の抑制」があるとしたら,それは「あまり意味がない」(33頁)と鰾膠もなく断言する.元来,「基準財政需要額の算定は,配分のためのルールであるので,算定が簡素か複雑であるかは,個別自治体への配分には影響するが地方交付税の総額決定には影響しない」ためである.むしろ,財政需要の把握の課題は,「公平な配分と簡素な算定は,大きな方向性としてはトレードオフの関係」(33頁)にあるという.なるほど,
本書では,地方財政制度を構成する地方財政計画と地方交付税制度を素晴らしく丁寧な説明をする.15章に分かれる本書は,各章が濃密であり明解な講義を聞くようでもある.読み進めただけでも,下名のような「行政畑」の外部観察者にとっては,地方財政度制度が持つ「奥深いもの」(鄴頁)にも近づき,「奥の院」(鄽頁)の扉のドアノブぐらいは掴めたような感想をもつ.
本書が説明する「ヒミツ」のなかでも下名個人的には,地方交付税の需要算定のパートは大変勉強になる.「基準財政需要額に含まれる部分と留保財源の対応となる部分,特別交付税で対応する部分の区分は財源の構成等の影響を受けるので,その線引きは毎年度,変わる」(39頁)なかで,「留保財源の動き」に関する次の指摘には,なるほどと思いました.

実際の補正係数は,財政力指数ではなく,人口規模等に応じて決められている.人口規模と税収の多寡は,完全に相関しない.したがって,現実の基準財政需要額の算定で,留保財源の増減を,個別の費目ごとに単位費用と補正係数ですべて調整できるわけではない.留保財源の増減を基準財政需要額の算定で調整する結果,留保財源の増が基準財政需要額を「けり出す」効果をもつことになる.基準財政需要額を標準的な経費と誤解していると,単位費用と補正係数の変化の背景に,留保財源の動きがあることを見逃しがちである.」(43頁)