本日は,北村亘先生よりご恵与賜りました同書.北村亘先生,誠にありがとうございました.
「捨て石」(269頁)ではない,要石である.
本書を読み終え,そのような感想を持ちました.兎角,政令指定都市(制度)は,地方自治の議論のなかで看過されすぎてきました.確かに,特別市制度から政令指定都市制度成立までの制度史的分析に傾斜した研究業績はありましたが,政令指定都市(制度)の実際への分析は驚く程少ないことも事実です.
そして,制度改革に際しても,都道府県指向,若しくは基礎的自治体の場合では小規模市町村指向があり,大都市制度の改革論の進展は皆無に等しい現状でした.ようやく近年,「大阪都」構想を端緒に大都市制度が改革の俎上に載りはじめたことは(議論が分かれるようですが),むしろ,政令指定都市(制度)に多くの方が関心を持ってもらうということでは有益であったように思います.
権能と組織という政令指定都市制の形成と運用とともに,そこに蠢くプレヤーたちの実際,大都市類型を明らかにされた本書は,今後の大都市研究の要石となり,研究の裾野を更に広げていくことになるかと思いました. たいへん勉強をさせていただきました.
特に,第5章は最も本書で重要な章と思いました.
税収の推移の分析から,「政令指定都市の多くは,基礎自治体の中では珍しく,法人の動向と地価の下落に税収が大きく左右される」(186頁)との指摘は,場合によっては多くの方が幻想的に抱いているかもしれない「大都市=安定財源」という感覚的・印象論的な大都市(制度)とは一線を画するものと思います.この税源面での制度的不備こそが,政令指定都市(制度)の「妥協」でもあり「歪み」(192頁)であることを痛切に感じました.そして,永らく,政令指定都市側が主張し続けてきた(ただ,その根拠と論拠がややもすると不明瞭な部分も残っていた)大都市特例税制の創設の必要性を強く感じるものでありました.
本書では最後に「大都市の実質的要件の法定化」(253頁)を主張されています.全く同感です.もちろん,どのような要件を定めても,指定に際しての裁量の幅は残るものですが,如何せん現行制度では「インフォーマルな基準」(50頁)過ぎます.制度改革論でも看過されている移行基準ですが,むしろどこが大都市であり,そうでないかという「よりましな境界」(264頁)を明らかにするために,移行手続を含めた法制度化,つまりは透明化が望まれるところです.
なお,2008年12月7日付の本備忘録において項目立てを試みた本備忘録における妄想的・断続的観察課題である「庁舎管理の行政学」は,本年度,本務校の学生さんと職員研修に関わらせて頂いてる皆さんと一緒に取り組み始めており,「庁舎管理の行政学」の観点からは,区役所の立地と機能に関する次の指摘は,なるほどと思いました.

区役所の建て替え問題が一部の区で出てきている.隣接区ならば,それぞれで区役所を建て替えるよりも,合同庁舎を立てて(あるいは借りて),区役所を同じビルの違うフロアーに入居させる方法もありえる.特に,交通網が発達している大都市であれば,区の中心に区役所を置くよりも,ターミナル駅の高層ビルの方が隣接している区の住民双方が通いやすいだろう.その場合,職員の人事管理などのバックオフィス機能,各業務の郵送業務なども一元化できる可能性がある.」(197頁)