本日は,同報告書(案).2013年9月20日に開催された第5回都市部の高齢化対策に関する検討会の資料*12013年5月9日付及び同年9月13日付の両本備忘録で記録した杉並区による「南伊豆町にある区有地」での特養整備の取組.同取組を踏まえての都道府県を越えて特養を整備し入所をする場合への制度的課題に対する,同報告書の考え方を確認するために拝読.
本報告書は「高齢者の絶対数の増加」(1頁)が進む「都市部における高齢化対策」をまとめている.内容は,そのタイトル通り「都市部の強みを生かした地域包括ケアシステムの構築」にある.
では,都市の強みとは何か.本報告書では「集住,多様な人材,整備された生活インフラ,活発な企業活動等」(7頁)に見出す.本報告書が提示する「都市部における高齢化対策」では,在宅医療・介護の徹底が基調に置きながら,多様な住まいの実現を進めるように,医療・介護サービスとの連携,そのための既存インフラの活用を提案する.さらには多世代共生を進めるようなハード面での「住まい」ではなく,「住まい方」にも言及する.また,介護予防の方策では高齢者お1人おひとりに焦点をあてるのではなく,「ポピュレーションアプローチ」(15頁)の意義を強調する点も特徴的である.「ボランティア,NPO,協同組合,社会福祉法人,民間企業等の多様な主体がサービスを提供」するサービス提供体制を「生み出し,充実」するための「生活支援サービス全体のマネジメント」を「市区町村が主体的に取り組むこと」(16頁)の必要性を強調する.
各方策では,制度改正を要する内容とともに,現行制度を通じた運用改善の提案としての色彩も強いようでもある.これは,介護の実践を踏まえた現場の問題意識に根ざしたうえで検討されているためだろうか.とはいえ,現状の範疇のみでの提案だけではない.大胆なアイディアからの制度運用へ改善案もある.例えば,次のような報告書での自問自答の箇所である.「「都市部では近隣の関係が希薄で互助は難しい」との指摘もあるが,果たしてそうであろうか.これらの高齢者は狭い地域に集住していることから,やり方によっては互助の関係も生まれ,互いの見守りも行いやすいと考える」(17頁).なるほど,これもまた,現行制度からの「やり方」次第なのだろう.
「やり方」を強調する同報告書では,主に「都市部局と福祉部局の連携も必要」(12頁)という自治体内での部局間連携の「やり方」を各箇所で強調する点も特徴的である.例えば,多様な生活支援サービスの支援では「福祉部局を超えた対応が必要であり,縦割りを廃して,例えば,関連部署が幅広く参画するプロジェクトチームを設置して対応する等の工夫が求められる」(17頁)と,プロジェクトチームの整備を提案する.また,施設整備では,「開発事業者がマンション等の建設に当たって施設整備を組み込む場合には,福祉部局と建築部局が情報の共有化を図ることが一層重要となってくることについて認識する必要もある」(18頁)や,施設整備の手法での「今後,既存施設の建て替えが必要になってくる時期を迎えることにも留意が必要で,こうした建て替えがスムーズに進むよう,地方自治体において,都市計画,建築等の関係部局との連携の下,容積率緩和制度の活用などを検討していく必要がある」(18頁)のように介護とまちづくりを一体的に対策をとるべく二部局間調整の必要性を述べている.「総動員」(23頁)するのは何も多様な人材,活発な企業活動等ばかりではない.むしろ,行政組織もまた総動員する必要であるという,メッセージを強く述べているようでもある.
さて,冒頭で触れた都道府県を越えた特養整備等への考え方である.杉並区の取組には市町間での連携実績には一定の評価を示しつつ,課題として「東京都と静岡県介護保険事業支援計画において,杉並区から南伊豆町特別養護老人ホームに入所するニーズを明記した上で調整が図られること」や「入居者本人の意思の尊重が大前提であり,重度の要介護状態となったら,本人の意思にかかわらず,家族や地域から切り離されて地方の施設に入所させられるといったことにはならないよう十分な配慮が求められる」(20頁)とも述べる.さらに,今後の同種の取組が進められる場合で考え方を敷衍もする.「まずは,関係する都道府県間において、相手自治体から自身の自治体の施設に入所するニーズを相互に把握した上で,双方の介護保険事業支援計画で明記する形で調整することが最低限必要である」(20頁)こと.そして,「さらに,要介護高齢者のこれまでの人生を顧みた際に,相手自治体の施設への入所が,本人自身の真の意向であると解釈することが合理的であると言えるだけの背景についても必要となると考えられる」(21頁)とある.
前者は本書の制度提案事項の一つでもある「整備数の圏域間調整」(19頁)とも共通する問題意識なのだろう.後者は,個人の意向や判断を尊重すべきであるという趣旨でもある.「住み慣れた地域に近接する地域で施設の入所等が可能」(19頁)のなかでの近接での施設入所と都道府県を越えた特養へと入所することの間では,個人の意向では果たしてどの程度の差異があるのだろうかなあと思いながら読み進めたなかで述べられた,次の指摘はなるほどと思いました.

地方が都市部からの移住を期待するのであれば,特別養護老人ホームのみを整備し,入所を求めていくのではなく,自立型の住まいを用意し,医療・介護サービスを届けるといった形を目指すのも一つではないかと考える」(21頁)