本日は,同書.
自治業界,押しも押されもせぬ老舗・先進自治体(語義矛盾を感じなくもありませんが)が幾つかあるとすれば,三鷹市はそのグループに含まれるのだろう.
三鷹市の場合,広く,そして,深い市民参加の「実践」*1が評価されることが多い.同市の総合計画となる第4次基本計画を策定する過程を描いた本書でもまた,無作為抽出による市民討議会方式に分量を割く.それは「多元・多層の開かれた市民参加」(55頁)を実践する自治体の姿がここにある.
もちろん老舗・先進自治体,同計画の新しさは市民参加ばかりではない.計画期間を「首長任期」との「完全に一致・連動」(53頁)したこと,そして,「20を越える個別計画の策定」を総合計画の策定と「同時に進める」(51頁)ことで「個別計画も首長任期に完全に連動」(52頁)したことなど,まさに行政分野への総合的な「民主的統制」*2」を実現していることが分かる.
しかし,本書の面白さは市民参加ばかりではない.第1部こそが重要である.それは,計画策定時の各種推計のつくり方である.多くの自治体では人口推計,そして,明示化するか否かは分かれるが財政推計はほぼ行われる.しかし,同市では,歳入面での推計も事欠かない.つまり,出るを量る仕組みとなる総合計画は,量られた出るに基づき入るを制するまえに,まずは入るもまたしっかりと量るのである.
同市での具体的な入るの量り方は,次の通りである.例えば,個人市民税を年齢区分に基づき分析した,という.分析結果からは同市の歳入構造の特性が明らかになる.それは,「30代から50代が中心」であることは自明としても,「高齢者層も比較的高い納税額の水準を維持し,納税義務者に限ってではあるが,20〜34歳の層よりも現役世代ではない60歳以上の層の方が納税額が上まわっていること」(15頁)を明示化することができた.これは,図表をみるとより特徴的であり,80代以降の税収増加は顕著である.
そして,このような前提に基づき今後の個人市民税のシミュレーションを行うのである.実質賃金上昇率,年金給付額の見直し,年代別賃金カーブを複数の条件から分析している.同市の歳入のシュミレーションの取り組みのうち興味深い点点は,結果として,悲観ケースから楽観ケースまでの8パタンを提示した転にある.
しばし,根拠のない楽観的な推計が示されることもある計画が,同市では根拠がある「悲観ケース」(25頁)を含めた「確かな政策論議」(25頁)が行われているのである.同市が新しさを試みの背景には,しっかりした根拠に基づいていることが分かる.「先進自治体」とはあくまで業界内での相場観という相対的な評判とすれば,評判に関わらず同市では内発的な計画刷新を繰り替えているようでもある.
本書を読むと,「人口減少・少子高齢化」の「時代」(68頁)であるからこそ,総合計画のつくり方を見直す必要性を感じとることができそうである.果たして,何故このように同市では計画に信頼を置くことができるのか.おそらくその回答の一つは,次の指摘からも,なるほどと思いました.

三鷹市では,総合計画は計画行政の始まった時代から全て職員が執筆している」(54頁)

*1:清原慶子, 淡路富男, 三鷹市三鷹がひらく自治体の未来』(ぎょうせい,2010年)8頁

三鷹がひらく自治体の未来-品格ある都市をめざして-三鷹がひらく自治体の未来-品格ある都市をめざして-

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*2:金井利之『実践自治行政学』(第一法規,2010年)56頁