新市庁舎整備を検討している横浜市は27日、基本構想で示していた民間へ貸し出すオフィス床の整備を行わないことを明らかにした。新庁舎移転後の現庁舎の建物と土地の賃貸収入も、収支シミュレーションから除外。市は、賃貸収入を前提にした収支に関するこれまでの方針を転換した。
 同日の市会特別委員会で、高層部に想定していた約1万6千平方メートルの賃貸オフィス床の整備を行わないことを説明した。今年3月に策定した基本構想で、市は民間への賃貸収入として年間約19億円を見込んでいたが約2億円に減少、年平均約3億円の一般財源負担が生じる。市総務局によると、こうした変更で、事業費の一般財源負担分の回収終了は、当初想定の事業着手35年目から55年目へと大幅に延びる。
 新市庁舎のオフィス賃貸について市は、不動産業者などに聞き取りを行い、需要は少ないと判断した。オフィス床としていた分がなくなるが、市はビルを細くすることで高さについては大幅には変えない方針。また、現庁舎については今後、関内・関外地区のまちづくりを自由に検討していくため、現時点で不確定な改修費や解体費、建物と土地の賃貸収入は見込まないことにしたという。市はこれまで、新市庁舎整備に合わせて現庁舎周辺の「関内・関外地区の再活性化策」を一体で進めるとして、現庁舎に関する賃貸収入を前提に収支シミュレーションを行っていた。

◆市会から賛否
 「あらためて市民意見を聞くべきだ」「リスクを回避したのは妥当な判断」−。新市庁舎整備をめぐって、市が内容の変更を明らかにした27日の市会特別委員会。委員からは賛否さまざまな意見が出された。草間剛委員(自民)は「需要を考えれば妥当な判断。しかし、そもそも基本構想ではオフィス床の整備が前提条件ではなかったか」とただした。山隈隆弘総務局長は「構想では3カ所ある候補地を相対的に比較するため、建設可能な最大規模の建物を想定した」と説明。「オフィス貸し出しは前提条件ではない」と述べた。井上さくら委員(無所属クラブ)は、基本構想案の収支シミュレーションで「余剰床や現庁舎の賃料収入を含めれば毎年の収入が支出を上回り、新たな一般財源負担は発生しない」とした点に言及。「それを前提に市民意見を募った。根幹部分に関する変更であり、あらためて意見を聞くべきだ」と述べた。林文子市長が2020年の東京五輪までに新市庁舎を完成させたいとの意向を示している点について、和田卓生委員(公明)は「雰囲気だけで言われても困る。東京五輪横浜市がどれだけのビジネスチャンスとして取り込む戦略でいるのかが前提になければならない」と指摘した。
 ◆新市庁舎整備 現庁舎の老朽化や周辺約20カ所の民間ビルに行政機能が分散し、年間約20億円の賃料を支払っていることなどが課題で、1989年ごろから継続的に検討されてきた。2008年に北仲通南地区を種地として約168億円で取得。昨年末に3候補地に絞り込んだ整備基本構想案が示された。市民意見の募集を経て、今年3月に北仲通南地区を整備予定地とする基本構想を策定した。本年度中に基本計画を策定する。
【市庁舎整備をめぐる主な経過】
1989年4月  市庁舎整備基金を設置
  95年1月  市庁舎整備審議会答申で現庁舎、北仲通、MM21高島地区が候補地としてふさわしいと評価
2007年12月 新市庁舎整備構想素案を公表
  08年3月  素案に基づき北仲通南地区の土地取得
  09年4月  現庁舎行政棟の耐震補強工事完了(約50億円)
  10年12月 中期4か年計画で「13年度までに基本計画策定」目標に
  12年5月  市会に「新市庁舎に関する調査特別委」設置
     11月 新市庁舎整備基本構想案で「北仲通南地区に新設」「現庁舎周辺再整備」「現庁舎と北仲通南地区の分庁整備」の3案が示される
     12月 構想案について市民意見募集
  13年3月  新市庁舎整備基本構想を策定。「北仲通南地区」が整備予定地に位置付けられる

本記事では,横浜市における新庁舎建設に関する検討内容を紹介.
2011年5月9日付の本備忘録で「新市庁舎整備基本構想」の検討開始の記録以来,観察を続けてきた同市の庁舎建築の取組.「新市庁舎整備基本構想」自体は,2013年3月に公表*1.同構想では,「建物内に余剰床が発生する場合」や「新市庁舎の敷地以外に土地の余裕スペースが発生する場合」には,「街の賑わいや活力を創出」とともに「来庁者や来街者等の利便性を向上」と「当事業における本市の財政負担を軽減」を目的に,「オフィス・商業施設などの民間機能の導入を図る計画」*2として同方針を策定されている.
例えば,「北仲通南地区での整備案」での「余剰床 33,000㎡」*3と推計する.そして,これらの「民間への余剰床の賃貸料等」を「所与の財源」として,「市債の償還費用及び管理・修繕費用」とする支出の推計も算出されてきた.例えば,同案の場合「約 20.60 億円/年」*4の収入と試算する.
「庁舎等の空地スペース貸付け」*5を検討された同取組.下名も検討内容を関心をもって観察してきたものの,本記事よると,同市では同構想策定後に「新市庁舎のオフィス賃貸」需要に関して「不動産業者などに聞き取り」を実施した結果「需要は少ないと判断」.これにより同方針を「転換」されたことを紹介.結果,「35年」と見込まれていた「当初負担(入居開始までの) 一般財源相当分の積立終了年度」*6は「55年目」となるとも紹介.そのため,他の3案よりも長期になる様子.
果たして,上記のように民間への貸付を想定されていた余剰床分の庁舎空間は,執務空間へと庁舎空間を利用するための機能再編をされるのか,はたまた,余剰を設けないようにと庁舎空間の圧縮へと再設計されるのか,今後の検討状況も,要経過観察.

*1:横浜市HP(各局の紹介総務局組織管理課新市庁舎整備に関する検討について)「新市庁舎整備基本構想」(横浜市,平成25年3月)

*2:前掲注1・横浜市(新市庁舎整備基本構想)12頁

*3:前掲注1・横浜市(新市庁舎整備基本構想)13頁

*4:前掲注1・横浜市(新市庁舎整備基本構想)14頁

*5:松本英昭『新版 逐条地方自治法第7次改訂版』(学陽書房,2013年)949頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*6:前掲注1・横浜市(新市庁舎整備基本構想)38頁