新書706銀座にはなぜ超高層ビルがないのか (平凡社新書)

新書706銀座にはなぜ超高層ビルがないのか (平凡社新書)

本日は,同書.銀座への愛がビシッと伝わる素敵な一冊.
「銀座らしさ」とはなにか.
銀座に住む人や営む人がもつ思い,訪れる人が感じる魅力はそれぞれ異なるのだろう.では,銀座への思いや魅力を持続するにはどうすればよいのか.
一つの方策は,本書が描く地区計画である.地域で地区計画の策定と実施に関わる銀座通連合会,銀座街づくり会議,銀座デザイン会議という場はかわりながらも,地域で話し合いで築かれたルールが地域計画である.「銀座デザインルール」に結実した地区計画へ思いは,例えば「国.都.区から何を言われようと「銀座は銀座であった,国の法律よりも銀座ルールを優先する」という「空気」」(143頁)をも持ちうる.
当初は行政との関係もややギクシャクしたなかで策定された地区計画も,時を経ると「信頼関係」(203頁)に移り変わる.一方で,信頼関係だけには危うさもある.そのためにも法的な保障が必要ではある.とはいえ,その危うさを乗り越えるのもまた「顔の見える間柄との日常的なコミュニケーションに支えられ」(204頁)た信頼関係なのだろう.本書はそのことがよく分かる.
銀座でのまちづくりの活動を描く本書は,「銀座らしさ」とは何か,という課題に地区計画という場で銀座自身が問い直していく具体的なまちづくりの風景を描いているはずなのに,コミュニティとは何かという一般的な問いも考えさせてくれる.
コミュニティの外延と自治体行政との外延が何気なく混ざりあうことで,それぞれの活動の境界がより鮮明になるような次の指摘には,なるほどと思いました.

行政と地域との感覚共有はとても大事だと思う.このため,銀座街づくり会議事務局では現在,数ヶ月に一度,中央区の担当部署と情報交換を行なっている.デザイン協議でこんなことが問題になった,困っている,こんな情報を得た,ということを,特に議題もなく一時間あまり話す.陳情でもクレームでもない.ただ情報を交換するだけである.中央区は「銀座の困りごと」に対して行政的な措置はとれないまでも,「こういうことを銀座は困りごとと感じるんだな」とわかっていれば,事業者に行政指導もしやすいし.何か起こった時の情報伝達も早くなるというものである.このようなこまめな情報交換が信頼関係にもつながっている.」(137〜138頁)