生活保護 VS 子どもの貧困 (PHP新書)

生活保護 VS 子どもの貧困 (PHP新書)

本日は,同書.2008年1月18日付の本備忘録で読了を記録した同著者による2冊目.今回の生活保護の「vs」の相手は「子どもの貧困」.
とはいえ,本書の半分(144頁)までは,むしろ「生活保護(論)vs生活保護(論)」との題目がむしろ的確かとおもわれるのような,二つの議論の対立を論じる.本書が整理する生活保護制度をめぐる二つの議論とは,濫給を厳しくチェックし個人や家族の責任を強調する「適正化モデル」(29頁)と,漏給が出ないように公序の拡充を述べる「人権モデル」(31頁)である.両モデルは,生活保護利用者数と財政危機,生活保護基準,稼働年齢層の増加,不正受給対策のいずれの論点でも埋め難い溝がある.
では,本書は二つの議論のまえに生活保護制度のこれからを放擲しているのか.むしろ,そうではない.本書では二つの議論を両睨みしながら「現実的に解決可能な,多くの人が合意できる課題から優先的に取り組んでいく」「統合モデル」(137頁)を提唱する.このモデルが目指す社会像は「頑張れば手に届きそうな,いまよりちょっとだけましな社会」(138頁)を描く.そして,この社会像のもとで生活保護制度は「入り口を広げるとともに,出口も広げていく」(143頁)ことめざす.極めて現実的な立場からの「熱い思い」(139頁)をもった提案だ.
しかし,相反する二つの立場が「合意」し「優先的に取り組んでいく」べき課題はあるのだろうか.それがまさに本書の題目にある「子どもの貧困問題」(144頁)である.第7章で紹介される3つのNPOの支援活動がまさにそうであるように「現場では静かに支援の芽が生まれ,広がりつつある」(244頁)なかで,子どもの貧困問題には異なる立場を越えて解決を目指さなければならないという強い問題提起でもある.前著と同様に,内容は骨太であり,思いやりもある.そして,制度の可能性を示された良書.
第8章では,生活困窮者支援策の全国展開の必要性からの各種提案が並ぶ.特に「パネル調査」の有効性とともに述べられた次の指摘には,なるほどと思いました.

新しい生活困窮者支援の議論では,成果を検証するための基礎的なデータの収集について,ほとんど話題になっていません.数年後に成果を問われたときに,「じつはデータを取っていませんでした」では,何のために事業を行うのかわかりません」(227頁)