2年生向けに演習方式で開講している講義の最終回で会読予定の同書.たいへん興味深く拝読.データ分析の立論により,まさに「背景要因の〈全体像〉」(穌頁)が解明された同書を読むと,印象論に捉えがちな少子化の原因と対策の考え方を改める機会となった.
 まずは,原因.本書では未婚化を原因にあると分析する.さらに,未婚化の要因を特に若年層の非正規雇用の増加と正規雇用の低下にあるとみる.なるほど,少子化とは子育て政策ではなく,むしろ,雇用政策なのであろう.なかでも,終身雇用が従業員になぜ長い労働時間をもたらすのか,という問いに対するメカニズムを解明された第3章は秀逸であった.
 次いで,対象.これまでの対策の対象は,ややもすると共稼ぎ世帯への変化を想定されてきた.一方,本書では「マスを占める」(49頁)「夫は仕事,妻は家庭という性別役割分業を行なう夫婦と子どもからなる世帯」とされる「典型的な家族」(35頁)を想定した対策の充実の必要性を述べる.
 実は認識を改められたテーマがもう一つある.それが,地域である.第5章は実に興味深い.同章によると従来の少子化対策は「都市型」(183頁)であり,結果「地域ごとに少子化の状況が大きくことなって」いても「地域で似通ったもの」(183頁)となる.とはいうものの,「出生率の低いのは,地方よりも都市である」ものの出生率への危機感は「都市住民の方が地域の少子化に危機感を感じていない」(168頁)現状もある.政策では「都市型」でありつつも,都市部の住民自体は危機意識が低いのである.
 では,どうするのか.本書の面白さはここにもある.分析に止まらず,いくつもの少子化対の提案にも踏み込んでいる点が特徴的な同書で,なるほどと思った箇所は,次の指摘.なるほど,少子化対策とは地方分権でもある,ということなのだろう.

従来,地域に合った少子化対策を実施しにくかったのは,国から地方への予算が認可保育所の運営費や地域子育て支援などの施策ごとに配分されてきたことにも原因がある.各地域がそこに合った少子化対策を実施できるようにするためには,少子化対策に関わる広範な事業予算を一括して地方に交付し,それを各自治体が地域の実情に応じて柔軟に使用できるようにすることが必要だろう」(185頁)