• 辛素喜「行政組織の成長と衰退(1)〜(4・完)」『自治研究』第89巻第9号,104〜128頁,第89巻第10号83〜99頁,第89巻第12号,79〜106頁,第90巻第1号,75〜106頁.

自治研究 2013年 09月号 [雑誌]

自治研究 2013年 09月号 [雑誌]

自治研究 2013年 10月号 [雑誌]

自治研究 2013年 10月号 [雑誌]

自治研究 2013年 12月号 [雑誌]

自治研究 2013年 12月号 [雑誌]

自治研究 2014年 01月号 [雑誌]

自治研究 2014年 01月号 [雑誌]

憲法はかわれど,行政法はかわらず」.そうかもしれない.しかし,行政組織はそうではない.結構かわっている.成長もあれば,衰退もある.本稿の最大の特徴は,行政組織の盛衰過程(特に,衰退の過程)を明らかにした点にある.
 対象は,保健所.保健所数は1990年代前半に急激に減少しはじめる.なぜか.保健所に期待される役割や政策課題,つまり,公衆衛生上の課題が解決したためか.確かにそうかもしれない.そうすれば,風邪や結核,乳児死亡問題が解決した1960から1970年代に保健所もまた減少する機会があったとも考えられる.だが,実際には1990年代であった.つまり,「行政需要の減少と保健所縮小の時期的ズレ」((1)106頁)のなぞがある.
 個体群生態学モデルという,組織論のテキストでは学ぶことが多いモデルを実際の行政組織の分析へと援用した本稿は,政策決定機構の選択により市町村の個体群へと「代置」((3)94頁)されていく保健所制度と,保健所自らがその存続ために選択した需要抑制方策の結果「必要性の低下」((3)98頁)に至る過程を明らかにする.「保健所の基本的ニッチは拡大」するものの「保健所の現実的ニッチは縮小する」((4)77頁)のである.これにより,ひとり保健所制度の分析に止まらない,行政組織のコアと何か,構造的慣性とは何かを知ることができる.良論文.
 なるほどと思った箇所は,次の指摘.行政組織もまた競争圧力のもとにある,ということなのだろう.

日本の保健所の事例からわかるように,行政組織には競争が存在し,資源獲得もなかなか難しい.保健所は市場競争にさらされたわけではないが,初期の段階では各種健康相談所や国保と競争し,その後は市町村と競争するようになり,厚生省によって国保,市町村,保健所の長所・短所が評価された.さらに保健所は,政治的支持の弱さゆえに財源獲得が難しかった.これらの点は,官僚制ないし行政組織が膨張しやすいという議論に反するものである」((4)102頁)