県人事委員会は、民間の大学卒業予定者の採用内定が早まっていることから、県職員の採用試験の日程の一部を従来より2か月早めて民間と同じ6月には結果がわかるようにする。法律や経済学などの専門知識だけではなく、より発想力や独自性を持つ人材を確保しようと、面接による人物評価を重視する。同委員会は「今まで公務員に目を向けなかった人にも挑戦してもらい、県庁を変えてほしい」と期待している。(秋穂隆浩)
 県人事委員会によると、早期に実施するのは「職員行政特別枠採用試験(大卒程度)」。採用予定は5人程度で、対象は来年4月の入庁時に22〜25歳の人。学業以外の経験で得たセールスポイントなどを記すアピールシートも初めて採用し、人物の見極めに活用する。4月の試験は地方自治体で最も早いという。
 民間企業の採用活動は、団塊世代の大量退職や、大企業を中心にした景気回復もあって2006年度ごろから活発化。2月から採用試験を始め、4月には内々定を出す企業もあり、6月にはおおむね民間の就職戦線は終わるという。これに対し県は、6月下旬〜8月上旬に大卒程度の試験を2回行い、8月下旬に合格者を発表しており、民間企業とは2か月も遅くなっている。同委員会と県が、学生に聞き取りなどをした結果、「地方公務員を志望しないのは民間より結果で出るのが遅いから」との声もあったことから、採用日程と試験内容を検討した。
 同委員会では「まず民間と同じ日程で挑戦してもらう仕組みをつくってみた。多様な人材確保は組織の活性化にもつながるはず」と話している。受験申し込みは2月1日から同月末まで。同シートを基に書類で選考し、4月13日、教養問題と論文による1次試験を実施。5月〜6月にかけ、集団討論を含めた計3回の面接を行う。この特別枠以外の大卒程度の試験は通常通り行う。問い合わせは、同委員会(0952・25・7295)へ。

同記事では、佐賀県の新規採用試験の実施時期を民間企業の採用時期に沿った「特別枠」を設け、4月試験実施、6月内定とすることを紹介。佐賀新聞(2007年7月2日)でも報道されたが、佐賀県の2006年度大卒行政職への応募は約300人であり、前年度比では半減となった。そこで、2007年度は「県庁就職セミナー」等を開催し、約440人の申込があったという。試験時期の「民間準拠」を行うことで、募集者数の確保とともに、質の確保にも期待する模様。
自治体の新規採用をめぐっては、市町村、都道府県、国、民間企業での競合関係にある。気になったので、試験日を確認してみたところ、実務教育出版のHP「平成19年度地方公務員試験日程一覧」及び「平成19年度 東京都・特別区・警視庁 試験日程発表!」*1で、都道府県・政令市・特別区の日程を一覧できる。特に市町村は、これらに民間企業を加えた競合他社と新規採用者の確保に臨むことになるため、試験日程をめぐる政治学は困難を極める。早く試験日を設定すれば多くの募集者を確保出来るかもしれないが、内定者が後の本命他社に合格すれば、そちらへ移動し、大量の辞退者が発生する可能性が高い。また、遅い日程であれば、募集者の時点で先の本命他社の後塵を期することが確実となるが、近年では敢えて遅くすることで募集者が多くなるケースもあるという。それではと、競合他社とガチンコ勝負で挑むには、募集者の確保にやや心許ない部分もある。
民間企業を意識した取り組みとしては、2008年2月号の『ガバナンス』(ぎょうせい)(興山英雄「短期集中連載 採用戦線異状アリ志願者を食い止めろ!第4回」)で、豊田市の「試験日の早期化」実施を紹介されている。豊田市では教養・専門試験を廃止し、「自己アピール採用」を導入。従来の7月試験実施から5月実施に改めている。同市の「自己アピール採用」では二次選考を「プレゼン試験」としたことも特徴として紹介。これによりさまざま個性をもった学生さんが二次試験に臨むことになったという。一方で、同市人事課の担当者さんの言葉として同誌が引用している部分は(121頁)、同制度の難しさとともに、現在の自治体職場に対しても、変革を求めているようにも読める。

その個性が強ければ強いほど、組織のなかで“出る杭”になってしまうこともある。その見極めが非常に難しい。

昨年一時期流行した「空気を読めない(KY)」方は、自治体においても活躍がしにくい。でも、同制度を通じて、組織内外の「縦」や「横」の分業関係*2を理解したうえで、「あえて空気を読まない(AKY)」覚悟(出る杭であることの覚悟*3)をもって仕事に取り組める人材が採用できれば、自治体にとっては有意義。一方で、同種の制度が余りに波及してしまうと「政治枠」化(ネポティズム*4の再興)の可能性も、少し懸念。


*1:実務教育出版「公務員試験ニュース

*2:大森彌『自治体職員論』(良書普及会、1994年)30頁

自治体職員論―能力・人事・研修 (大森弥自治体行政学シリーズ)

自治体職員論―能力・人事・研修 (大森弥自治体行政学シリーズ)

*3: 富山県政策情報誌「でるくい

*4:稲継裕昭「地方自治体における人材マネジメントの実現」『国際文化研修』第15巻第4号、2008年、25頁