川崎市は、直近選挙に合わせて投票を行う「選挙同日実施型」住民投票条例案を、六月二日開会の第二回市議会定例会に提案する。常設の選挙同日実施型は全国初となるが、選挙期間中は住民投票にかかわる住民運動を禁止する条項が新たに盛り込まれたことから、議論を呼びそうだ。
 二十六日会見した阿部孝夫市長は「二〇〇一年の市長選のときの公約であり、何年もかけて議論してもらった。選挙に合わせたのは経費節減の意味が大きい」とした一方で、期間中の住民運動禁止条項は「公職選挙法に抵触する違法行為を排除し混乱を避けるためで、告示前には自由にできる」と述べた。市は二月に発表した素案で「一般選挙と期日を合わせることで市政の課題への関心を高めることができるはず」と狙いを説明。国政選挙のほか市長、市議、県知事、県議など市全域を対象とする直近選挙に合わせるメリットを強調していた。公表された条例案では、選挙期間中は戸別訪問はもちろん討論会やビラ配りなどで賛成、反対などの投票を勧誘する行為を禁止した。投票前の情報提供は「市長が判断に資するため中立性の保持に努めた上で行う」という項目を盛り込んだ。二月下旬から三月までに実施したパブリックコメントで、住民投票運動に規制や罰則が必要とする意見が四件あり、考え方を盛り込んだという。「選挙と同日にやる必要がない」との意見もあったが、市側は「対象となる事案の緊急性があれば単独で実施することも可能」と説明している。そのほかはほぼ素案通りで、投票資格は十八歳以上の市民、永住者、特別永住者と日本在留三年以上の外国人。市民生活に重大な影響を与える事項について住民、市長、市議会の三者いずれもが請求・発議できる。ただし住民の場合は資格者総数の十分の一(約十一万人)の署名を添えて市長に請求する。

同記事では、川崎市において住民投票条例案を6月議会で提案することを紹介。同記事によると、同条例の特徴は、住民投票の期日を、国政及び地方選挙と同日とすることにあるという。川崎市では、同記事にもあるように、住民投票制度に関しては長らく検討を続けてきた。具体的には、2003年11月〜2005年3月には住民投票制度検討委員会、2005年12月〜2006年9月には住民投票制度検討委員会を設けて、2006年9月には、同委員会が『住民投票制度の創設に向けた検討報告書』を取りまとめている。
同委員会の同報告書では、選挙と同日に実施される場合には、「投票直前の時期に、住民団体等が行う投票運動が政治活動とみなされて一定の制約を受けることとなり、住民投票にとって重要な賛否両論の十分な情報と議論を踏まえた投票が行えなくなる」との懸念を示している一方で、「同日実施の場合に、選挙と住民投票の投票を併せて行うことによる住民の負担軽減、また、選挙と住民投票の事務を共用することにより、経費負担が見込まれる」との「メリット」の両論を言及している。そして、同日実施は否定はしないものの、「各主体が平等・公平な立場で投票が行える制度になるように十分留意する必要がある」との考えを示している*1.2008年2月のパブリックコメントの対象となった素案では、「住民の市政への関心を高めること、選挙との事務の共用化により、実施経費の抑制を図ることなどを理由として、原則、選挙と住民投票を同日に実施する」としている。具体的には、「投票や開票に係る準備や投票資格者に対する情報提供に要する期間などを考慮する必要があることから、投票期日を投票実施の告示の日から60 日経過後」として、「住民投票と同日に実施する選挙は、原則として、市長選挙など、川崎市全域を実施区域に含む選挙とし、市議会議員や衆議院議員補欠選挙などについては、対象から除」*2くと市長選挙との同日実施を提案している。
これらの制度選択の要因は何か。同委員会の委員も務めた金井利之先生は、先般公刊された住民投票制度一般に関する議論の分析において、<仕組みとしての地方自治>における住民投票法制との対比の中で、<個々の仕組み>としての住民投票条例の制定要因を端的に指摘される。つまり、「自治体レベルの権力者の意図が制度的に混入されていく」、「中立的な真空状態で作られるのではなく、現実の政治権力構造のなかでの産物」*3という。<仕組みとしての地方自治>である住民投票法制であれ、<個々の仕組み>である住民投票条例であれ、その制定権者の意向には拘束されること(金井先生が用いられている概念では「歪み」)からは自由ではないともある。なるほど。慧眼。
ただ、一度できた仕組みを通じた<個々の仕組み>である制度であれ、同日開催等についても<個々の自治実践>を通じて支障があれば、改廃もまた<仕組みとしての地方自治>においては保障していので、その「歪み」の補正の可能性もまた「制度上」はあるとも思われるがどうだろう。はたまたそれはまた別のお話か。

*1:川崎市住民投票制度検討委員会『住民投票制度の創設に向けた検討報告書』(2006年9月)31頁

*2:川崎市住民投票制度(素案)について』(2008年2月)6頁

*3:金井利之「地方自治のミ・ラ・イ第3回 「「歪み」を排した住民投票制度は可能か」『ガバナンス』No.86、2008年6月号、83頁

ガバナンス2008年6月号

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