知事の世界 (幻冬舎新書)

知事の世界 (幻冬舎新書)

同書は、東国原英夫宮崎県知事による、知事就任15ヶ月間の活動(観察)レポートともいえる内容。この間、東国原知事が「知事権力」を乗りつ乗られつする様子を、誠実かつ率直に描かれており、知事自身が期待している「地方自治への関心」(176頁)を高める上では非常に教育効果が高い一冊。
東国原知事が「知事権力」を最も発揮している事例としては、「トップセールス」(110頁)にある。しかし、宮崎県の宣伝以外にも、東国原知事は「知事権力」を活用する姿が描かれる。例えば、議会との位置取りに関しても自覚的に(知事曰く「アウトボクシング」(74頁)の距離感)「知事権力」を発揮しする。一問一答方式の導入を自ら提案し(70頁)、常任委員会にも呼ばれると、自ら出席(72頁)することで、議会との「対等な立場でチェックしあう関係」(70頁)を築こうとする。また、行政改革に関しては、「目に見えるかたちで革新をしていこう」(79頁)とすることが、その基本姿勢としてあるようだ。例えば、公用車の廃止(79頁)、知事公舎の県民開放(82頁)がその典型例であり、より実質的な改革としては、機構改革(65頁)、入札改革を断行する。特に、入札改革については「緩めて進めていたら、改革自体がいつしか骨抜きになるおそれがある」(98頁)と判断し、一般競争入札を導入し、迅速かつ確実な改革成果を上げようとする。ただ、最低制限価格の引き上げや総合評価方式の導入により「優良な地場企業を守る政策をとる」(98頁)という、地元への配慮を図ることも忘れない。その他には、自らのマニュフェストを、就任後6か月で、総合計画へと「落とし込み」(156頁)を行ったことは、自治行政上の「常識」からすれば、驚くべき「知事権力」の行使ともいえる。そして、計画期間を、知事任期を前提として4年間(154頁)と設定したこと、計画は「実現しなければ絵に描いた餅」(161頁)との考えから、所管課を明示した各年度毎の工程表(ロードマップ)(161〜163頁)を作成させたことなどは、上記の「目に見えるかたちでの革新」を計画においても貫いた取り組みともいえよう。このような「自ら行動する」(129頁)スタイルを貫き通した15ヶ月間で、いわゆる「実務家知事」ではできないような、のびやかな権力行使を展開する東国原知事も、流石に知事の「24時間年中無休」(86頁)の「時間に追われるというよりも追いかけている」(87頁)生活に、「せめて少し走る時間ぐらいはほしいというのが僕のささやかな願いだ」(93頁)との溜息もつく。
同書を読み通すと、東国原知事とは、現在までのところ、東国原知事が自ら述べるような「新しい知事像」(112頁)としての特質が多分に観察できる一方で、知事としての対応(知事権力の行使)には、決して奇を衒ったものではないことも分かり、メディアだけで知る東国原知事のイメージを一新することになる。