政府の地方分権改革推進本部(本部長・福田康夫首相)は6日、地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)の第一次勧告への対応方針の素案を公表した。生活保護制度に関する国と地方の協議の場の設置など30項目で、おおむね権限移譲を求める勧告を受け入れる。一級河川直轄国道の整備・管理権限、大規模農地の転用の許可権限など7項目は調整中とした。

同記事では、今月20日に開催される政府の地方分権改革推進本部に提出される、地方分権改革推進委員会『第一次勧告』を受けての政府方針(「地方分権改革推進要綱」とのこと)の素案が公表されたことを紹介。他紙の紹介では、増田総務相より、自民党地方分権改革推進特命委員会に提示されたともある*1。今回の地方分権改革の審議・決定の「場」を見てみると、個別の大臣折衝や事務レベル協議はもちろんのことだが、地方分権改革推進委員会自民党地方分権改革推進特命委員会、政府の地方分権改革推進本部、そして、経済財政諮問会議の4つが、個の間での骨太の方針、そして、地方分権推進計画に至るまでの主戦場ということか。ただ、同種記事のみからすれば、同勧告にいう「第2次勧告以降にまで及ぶ延長戦」*2は、同要綱素案では、自民党地方分権改革推進特命委員会と政府の地方分権改革推進本部での決着を付けず、詳細内容は継続して地方分権改革推進委員会の「場」で一定の結論を導くという、「漸進」型*3の対応を採ったとも言えそう。
同要綱の内容は未確認のため、具体的な『勧告』事項からの選別内容や記載ぶりとの対比ができず判断し難いが、『第一次勧告』において「平成20年度中を目途に制度改革の方向性を得る」(『第一次勧告』14頁)と記載されていた、生活保護制度に関する「国と地方の協議の場」の設置に関しては、同要綱素案内には提示されている模様(日本経済新聞社のみで紹介)。
昨晩拝読していた、「三位一体の改革」の折に設けられた「生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会」の委員を務められた京極高宣先生の近著*4によれば、当時の協議会は「真正面から議論が衝突」(44頁)し「検討打ち切り」(44頁)とされ、政府・与党合意に至ったこともあり、「専門家による政策科学的な検討と、政治家による政治的な検討との違いをまざまざと見せつけられた実感をもっている」(45頁)との感想が示されている。ただ、京極先生は、「当面の財政的議論ではなく、生活保護における国と地方の役割分担の在り方について今後も継続的に、かつ友好的に議論されるべきものとして、再度、設けられることが望まれる」(67頁)というように新たな「場」の必要性についても言及がある。そして、京極先生が具体的に想定されている「場」としては、「社会保障制度審議会のみならず、内閣の経済財政諮問会議など」(45〜46頁)と例示をなされている。
『第一次勧告』が想定する生活保護の「制度改革の方向性」という内容の具体化の程度次第とも思うが、年限設定が「平成20年度中」と限られていため、時間を掛けた詳細設計の審議は想定し難いとも思う。「三位一体の改革」時での協議会の経験から学ぶことがあるとすれば、まずは「事務レベルでの情報交換・意見交換」*5という対応に留まることなく、京極先生が指摘されるような政策的な基本方針を定めることができる「場」とすることが肝要か(ただ、上記の「場」以外にも個別行政領域毎に審議の場が増設し始めると、審議の質や方向性の面での、国と自治体、政府内全てが一致した適正化に至ることも困難となることが想定されるが)。

*1:毎日新聞(2008年6月6日付)「増田総務相:地方分権素案を提示」、産経新聞(2008年6月6日付)「揺れる地方分権改革 政府が対処方針案提示 批判先送り 根強い族議員反発

*2:地方分権改革推進委員会第一次勧告』(2008年5月28日)4頁

*3:大杉覚「行政改革と地方制度改革」西尾勝村松岐夫『講座行政学第2巻 制度と構造』(有斐閣、1994年)322〜323頁

制度と構造 (講座行政学)

制度と構造 (講座行政学)

*4:京極高宣『生活保護改革と地方分権化』(ミネルヴァ書房、2008年)

生活保護改革と地方分権化 (MINERVA社会福祉叢書)

生活保護改革と地方分権化 (MINERVA社会福祉叢書)

*5:第42回地方分権改革推進委員会(2008年4月17日開催)「資料3−3参考資料(生活保護行政の動向について)」31頁