市長の諮問機関を設ける際、調査や審査、調停などを伴う場合は地方自治法で条例に基づく設置が義務づけられているにもかかわらず、裁量で設置できるとした職員向け手引書を北九州市が作成していたことがわかった。総務省や専門家は違法性を指摘しており、同市も法への抵触を認め、見直す考えを示している。(興膳邦央、後田ひろえ)
 同法は、自治体が調査や審査をする付属機関を設ける場合、条例に基づいて設置することを明記している。手引書は同市の行政手続きの手順や解釈などを記した独自のもので、それによると、裁量で設置できる私的諮問機関を「付属機関と同様の趣旨で設置される」と定義。目的も同法で定める付属機関の設置目的と同じく「市政運営上の参考として必要な調停、審査、審議または調査等」としている。同市には裁量で設けた諮問機関などが約50あり、生活保護を受けられなかった3人の孤独死を検証した「生活保護行政検証委員会」は昨年5〜12月に計12回開かれ、3人の保護手続きを担当した市職員の尋問や、市の文書記録の審査を行うなどした。中学校給食導入の是非を検討している「食育推進会議」は昨年4月〜今年5月に計12回開かれ、試行中の学校視察などをしている。こうした運用について、九州大の斎藤文男名誉教授(行政法)は「付属機関と同等の役割、権限を持つ委員会は、条例に基づかなければ違法。委員への報酬なども法的根拠がない」と指摘。北九州市立大の岡本博志教授(同)も「活動内容が裁量で設置できる機関の範囲を逸脱している可能性がある」と話している。総務省行政課も「調査を行い、組織化も明らかな委員会が、設置の根拠となる条例を持たない場合は違法になる」としている。同市は大半の委員会で、1人当たりの報酬を1回の会議につき1万500円支給している。設置条例がない諮問機関委員への報酬について、福岡地裁は2002年、若宮町(現・宮若市)の支出を違法と判断、全額返還を命じる判決を出した。さいたま地裁も同年、埼玉県越谷市の支出について違法とする判断を示した。北九州市総務市民局の山口彰局長は「条例に基づく機関の答申は尊重しなければならないが、裁量で設置した場合は柔軟に対応できるとの考えがあった。現状の違法性は否定できないので、必要があれば手続きの見直しを検討する」と話している。

同記事では,北九州市において,「附属機関」と同様の役割を有する諮問機関については,私的諮問機関と位置付け,条例設置としないとする職員向けの手引書を設けていたことを紹介.「附属機関」(とする)か「私的諮問機関」(とする)か,その切り分けの判断は,自治体における組織編成権をどのように考えるかとも関係し,実際の所,難しい論点かとも思う.
1952年の地方自治法改正により,附属機関については,「付属機関といえども普通地方公共団体の行政組織の一環をなすものであることから,他の行政組織と同様に議会の統制の下に置くことが必要である」*1とされ,現在のように「附属機関」の設置においては条例設置が原則とされる.条例設置には,執行部による機構・機関の膨張を議会が抑止する目的があるとともに,条例設置とすることで,自らの自治体が条例により定めているその委員等への処遇(報酬及び費用弁償等)を適用することができる(地方自治法第203条第1項,第5項)効果をもつ.同記事でも取り上げられている福岡地裁の判決とは,「若宮町違法公金支出返還請求事件」(福岡地裁平成13(行ウ)42)であり,同判例を読むと「執行機関の附属機関を設置するには法律又は条例の定めるところによることを要し,附属機関が法律又は条例で設置されていない場合,附属機関の委員の任命行為は無効であって,委員に対する報酬等の支払いは違法」(判例:3頁)との判断が示されている.つまり,このように執行部の判断による「附属機関」創設による,処遇面(特に報酬等)の膨張もまた議会が抑制するためにも,条例設置となっているともいえる.
ただ,宇賀克也先生もご指摘されているように「実際には,条例に基づかず要綱等により設置される懇談会・委員会・研究会等のいわゆる私的諮問機関が少なくない」現状にある(いわば,「名ばかり委員会」か).これも両機関の切り分けの困難さがあってだろう.そして,「しばしば,私的諮問機関で重要な政策の方向性が決定され,条例に基づく審議会等以上で実際以上の意義がある」*2ともされる.つまりは,私的諮問機関といえども,その位置づけは重く,その一方で形態は多様である.伊藤正次先生による分析概念を流用させていただけば,自治体においては「行政委員会制度」への法的拘束が高いため画一性が高いものの,自治体における「審議会等制度」*3には「多様化」があるともいえる.これには種々の説明要因が想定されるものの,「審議会等制度」の「制度的選択」こそ自治体における組織・機構研究としては,興味深いテーマと思う.
また,諮問機関に関しては,個人的に気になっている事柄がある.各自治体で自治基本条例等を設けた場合,当該条例の中で「附属機関等の審議内容,結果の公開等」の文言を明記するケースを暫し観察する.これもまた,条例設置の附属機関であれば然るべき対応とも思うものの,問題は,いわゆる「私的諮問機関」の場合である.場合によっては,「等」に私的諮問機関を含まないとする事例もあるよう.ただ,「私的諮問機関」の場合,運用として原則公表・公開を行っている事例が大半であるようだが,より個別の会合の実際の運用を見てみると,例えば一定職以上の方々等との意見交換等では,「気兼ねなく,率直な意見交換のため」として「フリートーキング」という名目の下,突如非公開として運営される事例もママある模様.しばし,これらの会議では,意見交換者間で「率直すぎる」意見が展開されるものの,自治体運営においても重要な意見が展開されることが多いともいう.審議会等は,幾ら「振り付け」「仕込み」をしたとしても,「事務局が想定したとおり進むとは限らない.予想外のハプニングが起こる可能性はある」*4という.そうであればこそ,これら諮問機関におけるインプロビゼーションもまたそのまま,公表・公開することも妥当とも思うがどうだろうか.

*1:木村俊介「附属機関・専門委員」高部正男編著『執行機関』(ぎょうせい,2003年)178頁

執行機関 (最新地方自治法講座)

執行機関 (最新地方自治法講座)

*2:宇賀克也『地方自治法第2版』(有斐閣,2007年)187頁

地方自治法概説 第2版

地方自治法概説 第2版

*3:伊藤正次『日本型行政委員会制度の形成』(東京大学出版会,2003年)29〜32頁

日本型行政委員会制度の形成―組織と制度の行政史

日本型行政委員会制度の形成―組織と制度の行政史

*4:森田朗『会議の政治学』(慈学社,2006年)97頁

会議の政治学 (慈学選書)

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