磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

快書.平松剛さんの前作『光の教会安藤忠雄の現場』も徹底的に面白かった.次作を待ちに待った結果,選ばれた建築家が礒崎新,そしてテーマが「都庁」となれば,これは著者名を確かめなくても,題目だけでも魅かれてしまう.本作も又,ひたすら楽しい読書.
現在の東京都庁舎の設計競技という「108日間の“競走”」を,建築家・磯崎新を基軸と置き,師・丹下健三との対比のなかで語る.
東京都庁舎案のなかで磯崎案だけは異様である.それは,ひとり「低層案」を提出したためであった.そのため,磯崎案には,「中層のため建坪率がオーバし,一部は道路上にかかって計画されていた.これを実現するには条例を変えなければならず,よって現実性乏しいとして,当選案絞り込みのラインから外されている」とされていた.これは,「確信犯的条例違反」とも言われ,「丹下に対して本気で“父親殺し”をねらった」*1 とも,建築史家・藤森照信先生は解されている.では,本当に,礒崎新は,「父親殺し」のための「確信犯的条例違反」を行ったのだろうか.このような関心から同書を読み進めていくと,大いに裏切られる.礒崎新にとっては,大都市東京に建てられることが求められた「シティホール」としての都庁舎の設計を,「錯綜体」(231頁),「やみくろ」(397頁)から構想し,「全力で臨んだコンペ」(452頁)であった.また,礒崎新による428頁の立面図,断面図を見て,「これは,もしかすると」と思い読み進めてくと,458頁で複雑な師匠からの「愛」を感じることになる.
東京都庁の設計競技を巡る群像劇のみならず,建築家と支援者,建築家の工房のありよう,作品に至るまでの思想形成,そして,幾層にも重なる師と弟子の引力と斥力の関係等,様々なテーマが描き出される.やはり快書.

*1:藤森照信「新都庁舎コンペ−帰ってきた丹下」丹下健三藤森照信丹下健三』(新建築社,2002年)445頁(同著も,本書では登場(456頁).印象的な用い方がなされる.)

丹下健三

丹下健三