県は産休や育児休業を取得する職員の増加に対応し、行政職の代替職員の候補者を試験で選び登録する制度を今秋スタートさせる。一般行政事務に当たる人材を確保することで、育休を取得しやすい環境を整えるとともに、休業中も県民サービスの向上を図れるようにすることが狙い。本年度は四十人程度の登録を予定しており、九月二十一日に県庁で一次試験を実施する。
 県職員の女性の割合は、一九八五年の男女雇用均等法制定により年々増加。若い世代ほど高率で、二十代以下は過半数を占めている。これに伴い産休や育休取得者も増え、二〇〇七年度の育休取得者は七十六人に上った。休業中の業務は、これまで主にアルバイトで補ってきた。しかし、女性の職域拡大が進む中、許認可や査定などアルバイトでは対応できない業務も増えている。このため薬剤師や看護師などの資格免許職については、国家資格を条件に随時、代替職員を募集してきた。資格が必要ない行政職については、任用方法が課題になっていたが、今回、初めて試験を実施することで人材を確保することにした。登録期間は三年間。産休・育休取得者が出た場合、勤務希望地や勤務期間などの条件が一致すれば任用する。一次試験は筆記の教養試験で高卒程度の内容。二次試験は作文、面接、身体検査(持参方式)で十月中旬に実施する。受験資格は年齢、学歴を問わない。申込書を七月四日から、県庁総合案内や各地方合同庁舎などで配布する。申し込みは県人事課へ。八月一日から同二十九日まで受け付ける。問い合わせは同課、電話028・623・2039へ。

同記事では,栃木県において,産休育休を取得した職員の代替職員を確保するために,試験任用方式を採用し,試験合格者は3年間の登録とする予定であることを紹介.「比較的」「性別職務分離」が低い職場ともされる自治体における「仕事と生活の調和」(いわゆるワークライフバランス)のための,職場環境対策の一つ.一般行政職の代替としての要員任用を行う場合,「試験」任用方式で採用することは他の自治体が比較的見られる.やはり自治体とは「メリットシステム」の世界であると再認.
自治体に限らず民間企業も含めて,代替要員を確保する方法を大別すれば,代替職員を置くか否かで2つ(詳細にみると5つ)ある.代替要員を置く方法には,まず「直接代替方式」があり,雇用期間の定めのない職員・有期雇用職員・派遣職員を採用する方式がある.もう一つは,「順送り方式」ともいうもので休業取得者が従事していた業務に同一職場内の職員,庁内の他職場の職員を配置する方式である.いわば配置転換である.もうひとつの,代替要員を置かない方法には,「業務量削減方式」,「執務形態見直し方式」,「職場成員分担方式」の3つがあるとされる*1
従来の自治体の職場であれば,もちろんその職にもよるが,いわゆる執務形態としての「大部屋主義」もあり,「順送り方式」や「職場成員分担方式」を採用し,敢て試験採用に至らなくても,配置転換(又は,兼務)の妙で対処できていたのかと思われる.定数削減の影響は,その配置転換も困難となっているのだろうか,あるいは,これもまた執務形態としての「個室主義化」が進んでいることを傍証するものなのだろうか.種々考えさせられる.佐藤博樹先生と武石恵美子先生の御著書のなかでは,育児休業所得者への対応策としては,「職場の管理者の裁量に任せるのではなく,人事管理部門としても対応策に関して管理職に情報を提供することが必要」(90頁)とある(ただ,最近の佐藤博樹先生のご発言では「職場の管理職」の「意識改革が大事」ともある.これもまた重要*2).自治体においても,人事と組織(特に,執務)の設計を図る,人事部門の役割は大きい.
あくまで個人的な観察関心からすれば,「昇任」任用において「試験方式」を採用している自治体で,管理職又は管理職候補者(いわゆる「菅候補」)が産休・育休を申請した場合は,如何に対応するのだろうか.民間企業とは異なり,これら管理職等に関しては「公権力行使等地方公務員」としての変数もある.そのため,代替はそれほど容易ではないかとも思う.現在では,余り頻繁に見られる事例ではないのかもしれないが,特に女性の管理職登用が増加しつつあることとともに*3,生殖補助医療の広がりもあり*4,観察したいテーマ.
なお蛇足.依然,「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」は国レベルでの重要とされる政策課題の一つ.例えば,内閣府には,「仕事と生活の調和推進室」を置き,「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会」等で検討をし,厚生労働省でも「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」(これまで11回開催)を置く.これら各省及び各審議会間での「審議と答申の調和」はいかに進めるのだろうか.これまた観察.

*1:佐藤博樹・武石恵美子『男性の育児休業』(中央公論新社,2004年)86〜89頁

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)

*2:御船美智子・佐藤博樹「家庭と職場のありかたとワーク・ライフ・バランス:その前提と道筋」山口一男・樋口美雄編『論争日本のワーク・ライフ・バランス』(日本経済新聞社,2008年)120〜121頁

論争 日本のワーク・ライフ・バランス

論争 日本のワーク・ライフ・バランス

*3:坂本勝「自治体における人事制度改革と人材育成の視点」『都市問題研究』平成20年6月号,14〜15頁

*4:水野紀子・石井美智子・加藤尚武・町野朔・吉村泰典「座談会 生殖補助医療を考える」『ジュリスト』No.1359,2008.7.1,19頁(吉村発言)(加藤発言)

Jurist(ジュリスト)1359

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