県は、公共調達の入札契約制度について、基本理念や県の方針などを定めた県公共調達基本条例(仮称)案を県議会6月定例会に提案する。公共調達全体の基本理念を示し、制度そのものを審議する新たな第三者機関の設置などを盛り込んだ内容で、県は「こうした試みは他県では例がない」としている。
 県内では過去に土木工事や測量・設計業務で談合事件が発生し、対応策として一般競争入札の拡大などを先行的に行ってきた。しかし、その一方で、低価格入札の増加により、技術と経営に優れた企業が公共工事を受注できないなど、多くの弊害が指摘されてきた。条例化については、有識者や専門家らによる県公共調達改善委員会(今年3月31日に任期満了)が今年2月にまとめた最終提言の中でその必要性を提唱。これを受けて、県が条例の策定作業を進めてきた。条例に基づき設置する第三者機関の公共調達評議委員会(仮称)は制度の在り方を検討し、制度改善に向けた“監視役”を担う。必要に応じて制度を調査し、改善が必要な場合は、知事に対し、必要な措置を取るよう勧告できる権限を持つ。委員は県議会の同意を経て知事が任命する。また、県の方針として、制度改善に努めることや品質確保に留意することなどを明示。企業評価に地域貢献や環境保全対策などの取り組みを反映することや、制度の実施状況を県議会に報告することなども盛り込んでいる。県建設企画課は「条例化により、制度の公正性や透明性などを確保するとともに、品質確保の促進と優れた業者の育成を図っていきたい」としている。

少し古い記事となりましたが,同記事では,山形県において,公共調達に関する基本条例案を議会に上程する予定であることを紹介.同記事でも紹介されている山形県公共調達改善委員会の報告書によると,条例の主な基本構造は,基本理念,県の責務,事業者の責務,事業者の評価,事後評価と改善,公共調達評議委員会の設置の5項目とある*1
坂根徹先生によれば,国際行政における調達行政との対比に基づく,国内行政における調達行政の特性は,次の6点にまとめられている*2.第一に,調達内容が,土木建設サービス中心であること,第二に,調達現場からの距離が近接していること,第三に,調達相手先が地域内・国内が中心であること,第四に,優遇制度として域内企業や中小企業,環境物品への優遇がなされることが多いこと,第五に,調達における関係機関間の協力が比較的低いこと,第六に,調達手続が一競争入札を原則としつつも運用上は様々であること,とされる.これらの運用から派生する問題を回避するために,例えば,より公正性や競争性を確保にむけた改正方策が想定されるが,一様にはできない.長野県における入札改革制度改革に関して参与観察を経て分析された著作では,長野県の一般競争入札制度改革の特徴には,「財政改革推進プログラム」という「より大きな財政改革・公共事業改革における制度設計の枠組みの中で」「位置づけてきた」ことで,落札率の大幅な低下に至ったことにあるという*3.となれば,条例化もまた,改革の一部かとも思われる.各種改革・改正が持つ,片方立てれば片方立たずの状況を回避する一歩となるのか.要観察.
なお,同条例により設置を見込んでいる,「公共調達評議委員会(仮称)」.同報告書を見てみると,「収用委員会と同じような仕組みが必要になる」(20頁)ともある.一定の独立性を想定した委員会の模様.さらに,同委員会の勧告権が付与されることからすれば,「自己の名において対外的に当該地方公共団体の意思を表示しうる」*4ものともいえる.そうなれば,実質的には審議会(もちろん「名ばかり委員会」ではないことは当然だが)では収まらないのではないだろうか(むしろ「名ばかり審議会」か).
ただ,自治体側からの行政委員会としての設置を要請された事例とも考えられ,種々思いが巡る.自治体の行政委員会設置は,存置されている組織規制の一つともいえる.例えば,同規定の緩和については,地方分権改革推進委員会『第一次勧告』*5そして,地方分権改革推進本部の『地方分権改革推進要綱(第1次)』*6においても言及されている.同提案は,自治行政的感覚からみれば,かなり重要な内容とも思うが,メディア等では河川や道路という目に見える課題に言及されがちで,この「自由度拡大路線」というアイディアによる自治制度改革には余り言及されていない模様.
「具体的で分かりやすい」事柄を取捨選択しがちで,「一億総博知化」*7の効用を持つ,メディアの特性からすれば,これらの取り扱いには限界があることはともかく,同提案が,具体的にアイディアにとどまらず制度化に至るかは,興味深いも.ただ,個人的には,その議論の場が依然よく分からない.例えば,地方自治法の改正となるためには,第29次(または,第30次?)地方制度調査会で審議されることが適当とは思われるものの.恐らく,「平成21年度中できるだけ早時期」とされる新地方分権一括法に記載されるとなると,同委員会が審議する他の審議事項(今後は,議会制度)の決着を待つてとなると,余り悠長な議論を行うこともできまい.すると,地方分権改革推進委員会自体への審議差し戻しか.ただ,地方分権改革推進委員会もまた,既に次の審議課題,次の次の審議課題と目白押し状態.自治体の執行機関のあり方を,自由度拡大路線へとかなり大幅に改正することになるため,審議がなされる必要があるかと思うが,これら既存審議の場での渋滞状態を見ると,意外とサクリと新地方分権一括法に改正文が出されてしまうのだろうか(いや,そんな単純な話にはならいと思うが).
例えば,細かな法律論は置いておき,起きがけの寝ぼけ頭で「勝手に」,改正案を考えてみると次の3案が想起されるのか.第一は,現行地方自治法第185条の5の規定を前提として(言わば,現行法上必置とされている行政委員会は継続されたまま)新たな行政委員会の設置増加を認める案(つまり,第4項として,次のような条文を設ける案.「前三項に掲げるものの外,執行機関として,普通地方公共団体に別途法律に定めるところにより委員会を置くことができる」).いわば,特定委員会の任意設立条項追加案.第二は,同条自体全てを自由選択規定としてしまう案(つまり,第1項〜第3項を廃止し,次のような条文を設ける案.「執行機関として普通地方公共団体に,別途法律に定める法律の定めるところにより,委員会及び委員会を置くことができる」(現行四項以降は繰り上げ)).全委員会の任意設置条項化案.第三は,同条に新たな行政委員会の例示を追加する案.いわば,新委員会追加案.こう考えてみると,法律論及び実際上何れにおいても,なかなか厄介な問題もあるかとも思うが,どうなることか興味深い.

*1:山形県HP(山形県公共調達改善委員会)『山形県公共調達改善委員会報告』(2008年3月31日) ,22頁

*2:坂根徹『国連システムと調達行政』(東京大学行政学研究会研究叢書1,2005年) ,155頁

*3:森裕之『公共事業改革論』(有斐閣,2008年)113頁

公共事業改革論―長野県モデルの検証 (立命館大学叢書政策科学)

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*4:宇賀克也『地方自治法概説 第2版』(有斐閣,2007年)187頁

地方自治法概説 第2版

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*5:地方分権改革推進委員会HP(委員会の勧告・意見等)『第一次勧告』(平成20年5月28日) ,37頁

*6:地方分権改革推進本部HP『(地方分権改革推進要綱(第1次)』(平成20年6月20日),8頁

*7:佐藤卓巳『テレビ的教養』(NTT出版,2008年) ,290頁

テレビ的教養 (日本の“現代”)

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