• 小林明夫「複数の自治体の政策協調による条例の制定方法についての一考察(二・完)」『自治研究』第八四巻第十号,二〇〇八年十月,122~141頁.

9月4日付の本備忘録で拝読した論文の後半.「複数の自治体が共同して一本の条例を制定」*1する「共同条例」に関して,本稿では,主にその制度設計の可能性について考察された内容.特に,法律上の実体規定及び手続規定の要否の争点の検討から開始され(本稿では,「属地主義の原則は一般原則」としつつ「例外」(131頁)と規定することを提案),その後,具体的な実体規定及び手続規定に関する論点とともに整理・提案.
具体的には,地方自治法上の第二編第一一章第三節に「第三款」を「新設」(132頁)して,実体規定及び手続規定を置くことが提案.論点としては,都道府県と市町村とが共同制定団体となることの可能性(本稿では,「地域における事務を統一して処理する広域自治体同士又は基礎自治体同士のいずれかに限定する趣旨とするのが妥当」(133頁)との見解を提示),隣接ないし近接する自治体に限定すべきか否か(本稿では,「限定することは難しい」(133頁)との見解を提示)について検討される.
本稿で提案される具体的な手続きとしては,「共同条例案調整協議会の設置」(134頁)から始り,首長の諾否の決定手続,各議会への上程及び審議後の対応,そして公布手続(135〜138頁)と,「イメージ」(134頁)とされつつも,制定から公布まで一貫性をもつ制度として,説得力が高い提案が示されている.同手続提案のうち,特に,「共同条例案調整協議会の設置」への「議会議決は要しない」(134頁)という提案と,各議会での審議後「否決された場合は,当該団体は,共同条例の制定手続きから離脱することになる」(136頁)との提案を興味深く読む.両者の調和手続に関しても検討される領域も残るのだろうか.
制度設計の思考実験として刺激が多く,本稿を拝読してみると、種々観察してみたい実態面での課題が想起されてくる.特に,次の3点は観察してみたいテーマ.
まずは,「共通条例」の可能性について.本稿の主旋律である「共同条例」を制定せずとも,前号で紹介した「共通条例」により処理できる領域も依然多いようにも思う.また,「共通条例」の「実績」が累積されたうえに「共同条例」への移行という路線が穏当とも考えられ,そのためには,まずは「共通条例」の広がりこそが優先されるようにも考えられる.そこで,まずは,「共通条例」各自治体毎での制定実績と調整上の課題を観察母数を増加し,見てみたい(個人的には,2001年10月3日に北九州市下関市が「共通」した内容で制定した「関門景観条例」に関して,昨年度末に執筆した小論で触れた限りになっており,もう少し多角的な観察と考察を試みて見たい対象の一つ).
次いで,都道府県と市町村条例との関係について.本稿の発想からすれば,むしろ現行の都道府県が制定し,市町村の行動を規定する各種条例自体は,都道府県側からの市町村に対する事実上の「共同条例」とも捉えなおすこともできなくもないように思う.ただ,現行の都道府県条例の制定において,市町村側に対しては,条例制定段階での関与及び意見照会機会が設けらることはあるものの,その時期や調整機会次第では,片務的な内容となる蓋然性も低くはないようにも思われる.そのため,現行の都道府県条例の制定時こそ,都道府県と市町村間での透明な協議手続を整備することが適当か.そこで,本稿で提案される「共同条例案調整協議会の設置」「採択」「各首長の諾否と受諾首長による各議会への上程」までの手続規定に関しては,現行の都道府県条例制定過程においても準用しうる提案内容となりうるのではないかなあとも思わなくもない.都道府県条例と市町村条例の制定(協議)過程の観察を続けたい.
最後に,本稿では「議員提案条例のケース」について.本稿では,「次なる機会に譲りたい」(134頁)とあるが,やはり原則としては,(提出の実態は如何にあれ)議員提案条例の手続もあってこその部分もあるかと思う.例えば,「共同条例」ならぬ「共通条例」では,議員の議決審議の状況はどのような状況にあったのだろうか.調べてみたい.

*1:小林明夫「複数の自治体の政策協調による条例の制定方法についての一考察(二)」『自治研究』第84巻第9号,2008年9月,130頁