住民が地域の課題を話し合い、予算折衝まで行う智頭町の「百人委員会」が16日、発足した。今年6月の町長選で返り咲いた寺谷誠一郎町長が掲げていた選挙公約の一つ。住民の声を政策に反映させ、町の自立度を高めるのが狙いという。【宇多川はるか】
 百人委員会は、行財政改革▽商工・観光▽生活・環境▽保険・医療・福祉サービス▽農業・林業▽教育・文化−−の6検討部会で構成される。各部会に町の課長補佐クラス2、3人が入って住民たちの質問に答えるが、あくまで政策を立案し、提言するのは住民。町は各部会ごとに3〜4項目の企画書の提出を見込んでおり、町の各課が進める施策と重なる部分は調整していく。12月には寺谷町長と直接予算折衝をして認められれば政策が09年度予算案に盛り込まれる。委員の応募資格は満18歳以上で、町民か町内の事業所に勤務する人。8月末から今月8日まで募集したところ、140人の住民から応募があった。最も応募が多かったのは商工・観光検討部会の38人だった。100人を大幅に超えたが、町は「町政に参加したいという住民の思いを大切にしたい」として140人全員を委員に任命。報酬は支払われない。16日夜にあった「出発式」で、寺谷町長は「町長が『オレについてこい』という時代は終わった。この町は皆さんと皆さんの子供、孫の町。素晴らしい意見をぶつけていただきたい」とあいさつ。早速、部会に分かれて議論が始まった。

昨晩,2008年10月10日付の「自治日報」*1を拝読していた折に,初めて把握した取り組み.9月6日付の本備忘録でも見た大阪狭山市の取り組みとともに,重要な記事を見落としていたことを深く反省しつつ,一月遅れとなり,かなり古い記事となりますが遡って記録.
同記事では,智頭町において,百人委員会を設置して,予算案の作成等を行う予定であることを紹介..同記事及び,同町町長さんの思いと構想も紹介されている9月24日付けの日本海新聞*2の記事によると,同取り組みは,町長の公約に基づき開始.住民と役場と町会議員の「三つの力を結集」することで実現されたともいう.このように,行政・議会・住民が三位一体となった予算編成方式も興味深い.部会の審議期間は,12月までとやや短期間ではあるが,これに対して町長は「今回の良いところはすごく短期間であること」にあるとしており,「ずるずるするよりも命懸けで話し合う.ものすごく濃い,いい意見が出ると思う」との考えとともに,「本物の凝縮した行政ができる」「これこそが本物の住民自治」との考えも示されている.短期・濃縮型の行政スタイルは,これまた興味深い.
同町の百人委員会については,同町HPを参照*3.同委員会は,18歳以上の町民・町内事業所の勤務者が対象となり,行財政改革検討部会,商工・観光検討部会,生活・環境検討部会,保健・医療・福祉サービス検討部会,農業・林業検討部会,教育・文化検討部会の6つの部会(1部会当たり15名)にわかけれ,企画書と予算案を作成し,提案内容を町長,議員,担当課長と予算交渉を「実現可能な段階まで」(4頁)行い,議会審議議決,予算確定・事業開始のスケジュースを予定している.2008年10月の同町広報では,同記事でも紹介されている,同委員会の出発式の様子も紹介*4鳥取県経済雇用政策室の木村敬室長により,「智頭に日本の未来予想図を描こう」というテーマの講演等も行われたとも紹介.
同取り組みは,「住民を予算の決定仮定に巻き込み,関心を起こすととともに,住民共同ニーズをよりよく反映させようとする」*5いゆゆる「参加型予算」の仕組み.このような参加型予算については,従来では,「未だ国際的に定式化された方式はない」*6ともされてきたものの,近年の諸富徹・門野圭司先生による観察結果からは,同仕組みとしては,予算を各地域毎に分割し優先順位を定める方式,地域度とは無関係に制度を実施する方式,執行部予算に対する全体的な対案をまとめる方式,予算の一部のみをまとめる方式等(245頁),様々有るという.もちろん,同書では,住民参加による予算編成によって,予算の総合性・一体性を無視される蓋然性があること,住民が直接的に予算編成の正統性の問題,住民自身の専門性の欠如等の「本質的欠点」(246頁)もあるという.
ただ,同委員会の委員長に対する毎日新聞の報道*7では,「実的には、町政の行方をつかさどるような予算折衝は素人には難しいだろう.けれども予算書を提出する議論の過程で町民が予算の仕組みを知ることになる」として,「そこに百人委の大きな意義があると思う」とあり,「委員は20代から80代までいる.40代の若い連中も多く,彼らが行政に関心をもって仕組みを知ることが後につながる.まかん種は生えん.逆に種から芽が出れば何年か後に開花する」と,まさに「参加型予算」の本義を実現しようとするものであるとの認識があることを紹介している.
今後,具体的な検討を進めていくなかで,どのような課題が明らかになり,それらを如何に乗り越えるのだろうか.要経過観察事項(とはいえ,一般紙では余り大々的には継続的な報道はさないかもしれないので,地方自治関連雑誌等で経過報告等をしてもらえないだろうかと希望).

*1:自治日報(2008年10月10日付)「住民が予算案作成」

*2:日本海新聞(2008年9月24日付)「住民パワーで町活性 百人委発足、智頭町長に聞く

*3:智頭町HP「智頭町百人委員会その1」「智頭町百人委員会その2」『広報ちず』No.678,2008年9月号4〜5頁

*4:智頭町HP「智頭町百人委員会」『広報ちず』No.679,2008年10月号3頁

*5:諸富徹・門野圭司『地方財政システム』(有斐閣,2007年)241頁)

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)

*6:小島昭自治体の予算編成』(学陽書房1984年)63頁

*7:毎日新聞(2008年9月30日「智頭町:難題山積み 百人委運営委員長・小林実夫さんに聞く/鳥取」)