和歌山県和歌山市が平成21年度の人事異動で、2つの課長ポストを“期限付きトレード”することが20日、わかった。かつて犬猿の仲とも呼ばれた両者の関係に風穴を開けようと、仁坂吉伸知事と大橋建一市長の両トップが合意した。異動期間は2年以上で、問題がなければトレードを継続する。大阪府政令指定都市大阪市が課長級を含んだ人事交流を行っている事例などはあるが、県と中核市レベルで課長職を入れ替えるのは極めて異例だ。
 県と市によると、21年度から相互に職員2人を課長として受け入れ、各課長に若手職員も1人ずつ帯同させる構想。出向などの形態にするのか細部はこれから詰めるが、市はまちづくり分野での課長受け入れを検討している。仁坂知事は課長トレードの狙いについて、「県と市は伝統的に仲が悪いとされてきたが、本来は運命共同体。“戦友”を増やしてコミュニケーションを緊密にしたい」と説明。大橋市長は「今まで県は現場に直結していないため市民の声が届きにくく、市は全体を見る視点が欠けていた」と、県からの打診を受け入れた理由を話している。ある県幹部は「宇治田省三氏が市長、仮谷志良氏が知事をそれぞれ5期務めた昭和50年代から60年代初めごろが、お互い最もライバル意識が強かった。本当に犬猿の仲だった」と指摘。その名残か、最近でも県と市は政策面で連携の乱れがみられる。県が重要施策と位置づける景観条例や乳幼児保育料助成事業は、県人口の4割を占める和歌山市でいまだに実施されておらず、7月に開かれた県と市の会議では「意思疎通が不十分」との声も出ていた。県職員の一人は「市は近くて遠い存在のように感じていたが、これを機にいろいろと情報交換できるようになればいい」とトレードの試みを歓迎している。

同記事では,和歌山市和歌山県の間において,課長級の職員を相互に人事交流する予定があることを紹介.
同記事にもある中核市レベルでの市-府県間での同職位による異動は「極めて異例」という解説は,手元に集約されたデータがないため,要確認事項.ただ,日経産業地域研究所が1992年より実施しており,『日経グローカル』にて公刊されている「都道府県・政令市の人事交流調査」の2008年度版を拝見すると*1都道府県から市町村への出向・派遣者の「総数」は1745名,市町村から都道府県への出向・派遣者の「総数」は1784名と,全都道府県・市町村の人事交流「総数」のみを見るとほぼ均衡している.同データでは,市町村から都道府県への出向・派遣者の職名が把握できないため,同記事にあるように,同職位による人事交流が,中核市において実施されているかは把握できない.残念.ただ,都道府県から市町村への人事交流の様子を見てみると,中核市移行時の経路依存なのか,又は,都道府県と市側両側の「戦略的補完機能」*2なのか,保健所長(例えば,旭川市前橋市柏市相模原市富山市)を派遣・出向されていることは分かる.ただ,片側的な情報で止まっているので,今後の要観察事項.
なお,「若手職員も1名ずつ帯同」というのが何とも興味深い判断.いわゆる孤立奮闘を余儀なくされるであろう管理職を補佐するための「片腕」「右腕」*3なのだろうか.また,孤立する管理職を,各自治体としての判断へと適切に導くよう,同種の派遣・交流を受け入れる同市・県各々での既存職員の補佐体制をも如何に設計するのか,これまた興味深い.

*1:都道府県・政令市の人事交流調査 「官民」「自治体間」ともに縮小傾向」『日経グローカル』No.104,2008.7.21,10〜11頁及び21〜28頁

*2:大杉覚「戦略的補完機能としての職員派遣」『都道府県展望』No.596,2008年5月号,56頁

*3:脇坂明「右腕が中小企業の経営業績に与える影響」佐藤博樹玄田有史『成長と人材』(勁草書房,2003年)84頁

成長と人材―伸びる企業の人材戦略

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