河北新報社は、地方分権の進展に伴う地方議員の意識の変化を探るため、宮城県内13の市議会議員を対象にアンケートを実施した。回答した議員の4分の3が「分権が進めば議会が活性化する」と答え、議員は条例提案や政策評価ができる「プロフェッショナル」になるべきだとの回答が96.7%に上った。ただ、過半数の議員が、現在の議会事務局の体制では分権に十分対応できないと考えており、政策立案活動への支援の充実を望んでいることが分かった。
 現在の地方分権の動きに、「賛成」39.7%、「どちらかといえば賛成」35.1%で、分権を肯定的に受け止める議員が7割を超えた。「反対」「どちらかと言えば反対」は合わせて22.7%だった。地方分権が進んだ場合、議会が「非常に活性化する」は17.8%、「今よりは活性化する」が58.7%。活性化する理由の自由回答では、「自治体の権限が増え議会のチェック機能がより重要になる」「議会としての判断範囲が広がり政策提言が多くなる」など、議会の責任が重くなるのに対応し、議員の意識が高まることを予想する意見が数多く寄せられた。分権が進んでも、議会に「変化はない」が6.2%、「今よりも停滞する」が10.7%あった。その理由としては、「財源の裏付けのない状況では何も変わらない」「合併で議会と住民の距離が遠くなる」などの声があった。地方分権に向けて、現在の議会事務局の体制では「十分に対応できない」23.1%、「どちらかというと十分に対応できない」33.5%。議員の過半数は、政策立案、調査研究などでの事務局の支援を期待するが、法律などの専門知識を持った職員が少ないことに不満を持っているようだ。所属する議会の定数について、「適正規模なのでこのままでよい」43.8%、「減員した方がよい」が46.3%で、意見が分かれた。現在もらっている報酬を「増額した方がよい」は42.1%、「現在のままでよい」が46.3%だった。県内の6合併市の議員の3人に2人は、合併を評価したが、地域住民がどう思っているかについては、4割の議員が「大多数は評価していない」と答え、行政サービスの低下などへの住民の不満が根強いことをうかがわせた。
 <調査の方法>
 東北大大学院情報科学研究科の河村和徳准教授と共同で実施。宮城県内13市の議会事務局を通じ、市議421人に9月、質問票を配布。主に選択式の設問に記入してもらい、郵送などで回収した。回答者は242人(うち仙台市議36人)で、回収率は57.5%。議員の本音を探るため、実名公表を前提としない世論調査の手法を用いた。記名は任意とし、70人が匿名回答した。所属政党は自民49、共産28、公明14、社民12、民主8、無所属122、その他・無回答9。

同記事では,河北新報社宮城県内13市の市議会議員に対して実施した郵送質問紙調査の結果概要を紹介.新聞社による調査分析記事は,特定時期の様相を把握するうえで即時性と概括性をもち,議会に対する側面的な観察や一面的な印象論的による「世論に流されず輿論*1の喚起するうえでも有効な取り組み.大いに参考.
同調査では,市議会議員421名中242名が回答されている.その回答結果からは,74.2%が,「地方分権」を「肯定的」に捉えており,地方分権が推進することにより,76.5%は議会が活性化するとの考え方を示している.
同結果,2005年に行われた「都道県議会議員」に対する意識調査結果(回収率39%)では,地方分権一括法試行に伴う変化を尋ねた設問では,「権限や事務量の割に財源がないため,特に変化はない」という回答が,62.8%と最も多かった*2ことからすれば,その評価には差異が見られるようでもある.この結果の差異は,調査時期が異なることが要因か,または,調査対象が,同記事では市議会議員であること,2005年調査では都道県議会議員であることによるものなのか,はたまた今次の地方分権改革推進委員会による改革が,基本基調としての「自由度の拡大路線」*3のみならず,「事務量の拡大路線」*4を内包しているからなのか,種々考えさせられる,実に興味深い調査結果.可能であれば,宮城県議会に対しても同内容の調査を実施していただけると,この差異の要因を明らかにできそうか.
残念ながら,調査原票は同記事では紹介されていないため,同調査が指示する「地方分権」という用語の定義,そして,回答された議員の皆さんが想起されている「地方分権」という状況が具体的にどのような現象を指しているのかは判然とはしないが,「地方分権」によって,議会議員の活動が活性化するとの見立てが共有化されていることが分かる.ただ,同調査結果は,反射的にではあるが,地方分権が進まなくとも,更に議会議員の活動の活性化に結びつけるための要因(または,阻害要因)はどのようなものであるか,という更なる関心を持つことができる調査結果.

*1:佐藤卓巳輿論と世論』(新潮社,2008年)316頁

輿論と世論―日本的民意の系譜学 (新潮選書)

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*2:中谷美穂「地方議員の役割意識」小林良彰・中谷美穂・金宗郁『地方分権時代の市民社会』(慶應義塾大学出版会,2008年)49〜50頁

地方分権時代の市民社会 (叢書・21COE‐CCC多文化世界における市民意識の動態)

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*3:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

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*4:金井利之『自治制度』(東京大学出版会、2007年)21頁

自治制度 (行政学叢書)

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