来年度以降の全国学力テストの結果開示をめぐり、鳥取県教委事務局では県情報公開条例の改正準備を進めている。開示が公表につながらないよう「教育的配慮からの使用制限」を条件付けたい考えだが、知る権利や表現の自由などとも絡み、実効性のある改正ができるのか疑問の声もある。三十日には、議論のたたき台となる事務局案が明らかになる。
「情報公開条例の趣旨に照らして、制約をかけることは可能なのか」二十一日に開かれた県教委と市町村教委との意見交換会。冒頭、開示に反対する鳥取市の中川俊隆教育長が疑問をぶつけた。「どこで妥協点を見いだすのか」と中川教育長。これに対し、県教委の福本慎一次長は「使用制限は重大な権利の制約」と認めた上で、「全国学力テストに限定し、過度な競争が生じない配慮といった内容の条文を加えるなどの方法もある」と説明。使用制限を必要最小限に抑え、十一月県議会で条例改正に向かう考えを示した。県教委は二十二日には、校長会と意見交換。条例改正の検討項目として▽開示の範囲▽使用制限の範囲▽使用制限の方法▽違反者への罰則の是非−などを示したが、詳細には触れず、出席者からは「具体的なものが見えない」など不満も漏れた。白井靖二小中学校課長は「今後の検討次第だが、例えば(報道関係者は開示請求できないなど)請求者の制限は無理でも、新聞に開示情報を掲載したり、個人がホームページ上で紹介するなど“公表”につながらない制限付けは可能かもしれない」と示唆。教育現場との意見交換では条例改正に真正面から反対する意見はなく、「開示は条例改正で条件を十分整えた上でなければならない」「慎重に進めてほしい」など、おおむね了承する雰囲気に包まれた。一方、新たな制限を設けることに疑問の声もある。すでに現行条例でも、開示義務の例外として「小中学生の全県的な学力実態を把握するためのテストで十人以下の学級」を定めているためだ。鳥取大学地域学部の中村英樹講師(憲法行政法)は「教育の専門性や特殊性を持ち出し、教育的配慮という名目で一方的に非開示を判断するのは条例の根幹にかかわる。原則に反することをなぜ教育情報だけできるのか、きちんと説明しなければならない」と県教委の姿勢を批判する。また、「請求者に守秘義務を科し罰則を付ければ制限できるが、それでは情報公開条例とはいえない。罰則を付けるにも、序列化の恐れがあるというだけではあいまい過ぎて無理。実効性のある形での使用制限は事実上あり得ない」と議論を見守っている。

同記事では,鳥取県教育委員会において,来年度以降の全国学力テストにおける市町村別・学校別の成績を開示する方針を固めるとともに,開示に際しては,同県情報公開条例おいて教育的配慮からの使用制限に関する規定を置くことを検討していることを紹介.同記事は,7月10日付の本備忘録8月6日付の本備忘録8月13日付の本備忘録でも取り上げた記事の後の更なる展開.
これらの記事の後には,文部科学省からは『平成20年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて(通知])』*1が示され,「本調査の実施主体が国であることや,市町村が基本的な参加主体であることなどにかんがみて,都道府県教育委員会は,域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと.なお,個々の市町村名が明らかにならない方法で公表することは可能なこと」との考え方(技術的な助言)が示されたなかでの同県の対応.同県における執行部と教育委員会間での情報公開に対する態様に対しては,「答申は情報公開条例を客観的に解釈して調査結果の効果を妥当と判断する」「理」と「県民感情を動員して答申を覆した」「情」との間でのいわば「「情」と「理」の混在」と評される向きも模様*2.今回の改正が,「情」の部分を忖度し,「理」とした改正といえるのだろうか.
同記事を拝読し,個人的には,同条例の改正過程に関心をもつ.同県の「鳥取県行政組織規則」*3を拝見させていただくと,同条例に関する業務を所掌する部署は,同県総務部県民室*4と察せられる.ただ,同記事のように,各条例改正案の審議に関しては,一般的に想定される所管の「原課」*5提案に基づく制定・改正とは異なり,各部毎・行政委員会毎での審議とその提案に基づくものなのだろうか.特に行政委員会側に主導性がある場合,例えば,同条例改正案に関して,教育委員会内では改正案に関して合意は得たものの,執行部側からは拒否権が示される場合,どのような庁内協議を進めるのだろうか.同日の共同通信の報道*6のように,教育委員会での合意が確定したことから,議会に上程される手続へと直線的に至るとはないのかとは思われるものの,今後の動向もまた興味深い.または,既に首長部局内では同改正に関する合意が調達済みであり,それを受けて,同委員会において審議されたとの理解が適当なのだろうか.実際の所はどうなのだろうか.条例改正過程を観察する上では興味深い記事.

*1:文部科学省HP「平成20年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて(通知)」(20文科初第654号,平成20年8月22日)

*2:奥津茂樹「全国学力テストの情報公開」『ガバナンス』No.91,2008年11月号,105頁

ガバナンス2008年11月号

ガバナンス2008年11月号

*3:鳥取県HP(県政基本情報鳥取県例規集)「鳥取県行政組織規則」(昭和39年03月30日規則第13号)第7条

*4:鳥取県HP(総務部県民室)「公文書開示

*5:宮澤節生・武蔵勝宏・上石圭一・大塚浩『ブリッジブック法システム入門』(信山社,2008年)47頁

*6:共同通信社(2008年10月30日付)「鳥取県教委、成績開示へ 学力テストで条例改正案