住民目線で無駄のない公共事業を実施しようと、京都府は来年度から、身近な道路や河川の整備について住民から提案を募る「公募型公共事業」制度を導入することが、28日に分かった。府によると、公募意見を公共事業の「個所付け」を含む決定プロセスに反映させる仕組みは、全国で初めてという。
 「公募型安心・安全整備事業」として、来年度から新規に打ち出す方針で、信号機や横断歩道、通学路の拡幅や河川の親水施設の設置など、地域に密着した小規模工事が対象。地域の府土木事務所や警察署が、事業の必要性や緊急性を判断して事業化する。新年度予算案に事業費約60億円を盛り込む。具体的には、府民からメールなどで広く提案を募り、事業の採否の理由も公開する。この手法を採用することで、「説明責任や透明性を確保できる」としている。各種の公共事業を実施する場合、これまでは自治会や各種団体などから行政への陳情が一般的に行われてきた。しかし、陳情者の発言力などで事業計画が左右されたり、「聞き入れてくれなかった」と行政側への不満が出るなど、陳情や要望の扱いには不透明さが指摘されてきた。山田啓二知事は「どれだけ提案が寄せられるか分からないが、新たな挑戦だ。公共事業は今、府民から遠い存在になっている。住民の『気づき』を公共事業に結びつけることで、府政への関心を高めたい」としている。

同記事では,京都府において2009年度より,公共事業の採択に当たり,府民からの提案を募る「公募型公共事業」制度を実施する予定であることを紹介.同府HPには,現在のところ,同事業の詳細に関する情報が掲載されていない模様,残念.同府での来年度予算において,2008年度比で11%の公共事業増を進める*1との判断のなかで,住民の「気付き」を重視した制度化の取り組み.ただ,同記事のみの情報では,府民提案に対する採択方法・手続等,把握できない部分もあり,今後の公表を期待.
住民参加手法の整理として,住民の視点から「当該手法が参加対象としてどの程度の範囲や機会を住民に提供できるか」という「量的な度合い」と,「当該手法で住民が参加したときにどの程度深く関与することが可能であるか」という「コミットメントの質的な度合い」という2つの分類軸から,4象限に分類する方法から*2,同提案事業を考えてみると,前者の「量的な度合い」を,当該地域に居住する「府民」に限定するとすれば(もちろん,当該地域に居住する住民の領域規定も難しそうですが),量的な度合いは制約されるものの,後者の「コミットメントの質的な度合い」は高い参加が期待できる.ただ,余りに限定参加・深いコミットメントの参加が,同記事にもある「透明性」という観点に合致することになるかは,実際に実施してみないと判然としない部分も残る.また,前者の「量的な度合い」を広く全ての「府民」に参加機会を付与するとすれば,同記事にもある「説明責任」には果たせそうではあるが,後者の「コミットメントの質的な度合い」は低下することは避けられず,同記事で同府知事が発言されている「住民の「気付き」」というものが活かすことになるか,これもまた,実施してみないと判然としない部分があるようにも考えられる.
ただ,上記の日本経済新聞の報道のように,制約された歳入の下,積極財政をとった予算編成のなかで,同制度を通じて,事業採択の時点のみならず,いわゆる「地元への最大の贈り物」*3論的な,公共事業の進め方・実施方法・主体の側面にもまた変化をもたらす仕組みとなるかは,要経過観察.

*1:日本経済新聞(2009年1月30日付)「京都府、公共事業11%増――09年度予算案、景気・雇用に重点

*2:大杉覚「地方分権の推進 地域発自治創造の挑戦」地域づくり団体全国協議会『実践まちづくり読本』(公職研,2008年)97頁

実践まちづくり読本―自立の心・協働の仕掛け

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*3:武藤博巳『道路行政』(東京大学出版会,2008年)262頁

道路行政 (行政学叢書)

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