2005年の合併後、分庁方式をとってきた安曇野市で、新庁舎建設に向けた議論が進められている。審議会が、市の中心にあたる豊科地区への建設を軸に検討している。
 05年10月に5町村が合併して誕生した安曇野市は、人口約9万9400人。豊科地区にある旧南安曇郡自治会館を本庁舎としているが、延べ床面積約715平方メートルの2階建てと手狭で、市長室や総務部などしかなく、窓口業務は行っていない。隣接する県安曇野庁舎内に企画政策課などが入っているほか、市役所機能は、旧町村役場などを転用した6分庁舎に分散している。庁舎間の距離は1〜9キロあり、市民から「不便だ」との声が上がっている。本庁舎を含む5庁舎については、耐震基準を満たしていないという問題もある。
 市によると、職員が庁舎間を行き来する時間は年間1万8400時間で、職員9人の年間勤務時間に相当する。移動距離は年間46万キロにも及び、公用車や事務機器の保有台数も同規模の他自治体より多い。新庁舎に集約すれば、年間約1億円の節約につながると、市では試算している。市は昨年10月、「本庁舎等建設審議会」を設置。現在、新庁舎の規模や機能、既存の庁舎の活用法などを議論している。
 新庁舎の広さは、延べ床面積で2万〜2万5千平方メートルは必要とされ、審議会は「現在ある庁舎の敷地への建設は難しい」と結論づけている。市の中心にあたる豊科地区の3か所が候補に上がっているが、いずれも用地買収交渉、移転補償、道路整備など、実現に向けての課題は多いという。本庁舎建設の総事業費は約60億円。大きな財源として、合併特例債による約36億円を想定しており、市の自己負担額は約24億円となる見通しだ。だが、今後、税収の落ち込みが予想されることから、3月上旬に三郷公民館で行われた市民説明会では、「既存の庁舎を耐震補強するなどして利用すべきだ」「市民に負担がかかるのでは」などの反対意見も出た。就任当初から「新庁舎は必要」と主張してきた平林伊三郎市長の1期目の任期はあと約半年。それまでに、どれだけレールを敷くことができるか手腕が問われることになる。

同記事では,安曇野市において,新庁舎建設に向けた議論を進めていることを紹介.2009年4月9日付の信濃毎日新聞の報道によると,「旧豊科町内の3カ所を「適地」として絞り込んだ」として「5月にも市に答申する」*1とされていたなか,同記事を拝読すると,用地買収費,移転補償費,各種社会資本整備の点から「課題が多い」状況にある模様.同市審議会の状況については,同市HPを参照*2
2008年7月1日付及び同年9月18日付の両本備忘録でも見た分庁方式.(本備忘録では,お馴染みとなりますが)財団法人日本都市センターにより,全国の市区に対して,2007年度(2007年11月〜2008年1月)に実施したアンケート調査(回収率74.0%)の結果を踏まえて,この度発刊された書籍のなかでは,「行政機構の部課単位で複数の庁舎に振り分ける」(233頁)同方式は,「平成の大合併」を経験した都市自治体(303自治体)のうち,「本庁舎が手狭になるのを回避」*3すること等を理由に,21.5%で採用されていることが分かる.このことは,同市同審議会が提言した本庁建設に関する提言書内においても,分庁方式を選択した理由として「現在の本庁舎は,旧南安曇郡自治会館を使用していますが,事務室が極めて狭隘なために,本庁機能は事実上8つの庁舎に分庁しているのが現状です」*4との認識が示されていることからも傍証される.
ただ,「出先機関の今後のあり方」としては,「「平成の大合併」を経験した都市自治体の半分以上(54.4%)」が「できるだけ統廃合を進めていく」との回答があることを踏まえて,中西規之先生は,「多くがこのように回答したのは,合併時に,住民感情への配慮や,旧市町村職員の配属先や管理職ポストの「受け皿」として,旧市町村の役場庁舎を支所として位置付けたが,厳しい行財政状況の中,こうした体制の見直しが求められていることを反映しているものと考えられる」と分析されており,統廃合における財政要因仮説を提示されている.一方で,同市同審議会では,「問題点」としては,「市役所の機能が分散しているため,どこにどの部署があるのかが分からず,市民に不便をかけている」こと,「各部局間の連絡調整等での業務効率が低下し,支障をきたしている」こと,「人件費,庁舎間の移動に伴う経費,公用車やコピー機の維持費,庁舎管理経費等の行政改革が進まない」こと,「災害時における各部局間の連絡調整の迅速化が図れない」こと,「市民の一体感の醸成を妨げている」ことなど,財政要因仮説以外があることも提示はされている.このように提示された市側が認識する「問題点」については,同記事を拝読すると,分庁方式であるがゆえなのか,住民からも「不便」との意見もある模様.
市町村合併に対する古典的なデメリットとして,折々提示されきた「行政区域が広すぎてきめ細やかな行政サービスが行えない」*5との見立てからの,いわゆる「役所が遠くなる」論からすると,分庁方式では,総合支所方式が機能的によいのか,はたまた,結局は少しばかりは遠くても,本庁方式が結果的に一番分かりやすいのか,種々考えさせられる.

*1:信濃毎日新聞(2009年4月9日付)「安曇野市庁舎候補地、豊科の3カ所に

*2:安曇野市HP(行政について審議会・委員会など)「本庁舎等建設審議会

*3:中西規之「合併が市役所事務機構に与えた影響」村松岐夫・稲継裕昭・財団法人日本都市センター編著『分権改革は都市行政機構を変えたか』(第一法規,2009年)225頁

分権改革は都市行政機構を変えたか

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*4:安曇野市HP(行政について審議会・委員会など:「本庁舎等建設審議会)『本庁舎等建設についての提言書』(平成20年4月,安曇野市本庁舎等建設検討委員会)2頁

*5:小西砂千夫『市町村合併のススメ』(ぎょうせい,2000年)38頁

市町村合併ノススメ

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