仙台市の区役所制度が曲がり角に差し掛かっている。政令市移行とともに5つの区役所が誕生して20年。各部門をそろえた「大区役所制」の華々しさは薄れ、自治の拠点としての機能強化や、本庁と区役所の庁内分権といった議論は先送りされたまま。住民にとっての存在感は、かすむ一方だ。
自治拠点目指す>
 「区役所の役割は拡大している。政令市20年の節目に合わせ、在り方を見直す時期ではないか」。21日にあった市議会市民教育常任委員会。改革ネット・自民の議員が問題を提起した。宮本昭彦企画市民局長は「国で地方分権の議論があるように、区への権限移譲は重要」と認めたが、「行財政の環境は厳しい。人事や予算、全庁的な検討が必要になる」と困難さもにじませた。
 仙台市は1989年、政令市移行に伴い5区制=図=を敷いた。先行政令市が窓口業務主体の小区役所制だったのに対し、大区役所制を採用。区に権限と予算を預け、総合的な自治拠点を目指す姿勢は先進的とされた。これまで文化施設などの基盤整備は進んだが、きめ細かなまちづくり支援は停滞気味。一方、行革で予算や職員の削減が進み、本庁主導の縦割りは強まる傾向にある。区役所の在り方について市は2004年度、検討委員会を設置。06年度の予算編成から、まちづくり事業や集会所建設、道路と公園の維持管理などの予算要求の権限を移譲し、区に置いた課の一部を再編した。だが地域の協働拠点としての充実や縦割りの見直し、業務効率化と自律的な政策推進といった区役所強化の本質的な議論は先送りされた。本庁―区の「都市内分権」に向けた人事政策のてこ入れも進まなかった。少子高齢化やコミュニティーの衰退、貧困など地域が抱える問題は複雑、多様化している。市幹部は「時代の間尺に合わなくなった部分がある。最前線の区を起点に、全体の業務再構築が避けられない」と認める。
<くすぶる分区論>
 存在意義が薄れつつある大区役所制の理念。一方で、いまだに分区をめぐる不満もくすぶる。
 「『広瀬区』の誕生を初夢に見た。人口は間もなく7万になる。どうかかなえてほしい」。ことし1月、旧宮城町地区の新年祝賀会であいさつに立った宮城管内町内会長連絡会長の畑強さん(81)は、梅原克彦市長らに積年の思いを吐露した。分区論は、旧宮城町が合併時に仙台市と交わした「5万人を超えたら検討する」との約束にさかのぼる。しかし2000年秋の審議会で区割りは見送られた。畑さんは昨年12月、広瀬区誕生を目指し、愛子周辺などの広瀬地区連合町内会で勉強会を始めた。宮城管内全体の町内会長連絡会でも検討課題に据えることを目指す。青葉区はJR仙台駅から山形県境までを抱え、旧宮城町が区全体面積の86%を占める。その割に総合支所は予算も少なく、決定権も乏しい。畑さんは「20年たっても青葉区民の意識はまったくない。現状では区政の意味を感じられない」と嘆く。
[大区役所制]戸籍、住民基本台帳、税、国民健康保険などの窓口業務に加え、福祉、保健、土木建築、まちづくりなどを幅広く所管。1988年合併の旧泉市はそのまま泉区となり、旧宮城町(87年合併)と旧秋保町(88年合併)はそれぞれ青葉、太白区に組み込まれ、総合支所が置かれた。

同記事では,仙台市における行政区の現状について紹介.同記事では,同市が政令指定都市への移行以来採用してきた,行政区における,いわゆる「大区(役所)制度」的運用への疑問を呈する論調から,報道.政令指定都市制度の観察者の一人としては,大いに参考になる記事(ただ,自治行政業界関係者(観察者,実務家,そして,行政区の場合には,何よりも議員)以外の方々にも,問題関心が共有された課題なのだろうか.よもや,行政区のあり方が,本年7月26日が投票日の同市長選挙*1の争点とされているのだろうか).
同記事では,「分区」についても言及.政令指定都市の行政区における「分区」は,その「人口増加に伴い」「行政区を複数に分割する分区が比較的頻繁に行われてきた」*2とも分析されており,「分区の経験をもたないのは,広島市仙台市千葉市と,指定都市移行からまだ日の浅いさいたま市静岡市」(219頁)と,浜松市新潟市岡山市であり,いわゆる「80(ハチマル)世代」以降の8都市(2008年12月27日付の本備忘録でも取り上げた浜松市の検討状況次第では,「00(ゼロゼロ)世代」からも,今後は分区の検討可能性も内包しているように窺えなくもない).
例え,ただ,人口増加を根拠として「分区」を行った場合であっても2009年3月5日付の本備忘録において,堺市の事例を踏まえて言及した,区役所機能に関する路線(大区役所制路線,小区役所制路線,強区長制路線,弱区長制路線)選択次第では,同記事にもあるように「本庁主導の縦割り」傾向が強化されることも制度選択の範疇の一つ.その場合,結果的に,「民衆・被統治者側からの民主主義的入力が,為政者・統治者側からの統治権力という出力に対して不足していること」を指す「民政赤字(democratic deficit)」*3の累積されることにもなる.同市の現行が「民政赤字」状態にあるか否かについては更なる観察が必要ではあるものの,仮に,分区・小区役所制・弱区長制という路線が選択された場合,金井利之先生が提示された「大都市自治体の自己改革不可能性」(29頁)仮説の通りともなるが,今後の同市の対応は,要経過観察.

*1:河北新報(2009年5月13日付)「仙台市長選7月26日投票 日程決まる

*2:伊藤正次「行政組織の構造と変遷」財団法人東京市政調査会編『大都市のあゆみ』(指定都市市長会,2006年)219頁

大都市のあゆみ

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*3:金井利之「大都市自治体制度と「民政赤字」」『ガバナンス』No.97,2009年5月,27-28頁

ガバナンス2009年5月号

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