府と市町村は、10年度からの3年間で政令市(人口20万以上)並みの102件の事務事業を移譲することで基本合意した。住民に身近な市町村に権限を移しつつ、府県の事務を「関西広域連合」に集約することで、橋下徹知事の唱える「関西州」構想につなげるのが狙い。ただ、市町村には人員や予算の制約が多く、移譲がスムーズに進まない可能性もあるため、府は新たな財政措置やサポートチーム設置を検討して支援を行う。
 府はすでに、市長会や町村長会と権限移譲の大枠で合意。夏までに、市町村ごとに移譲する事務の内容や時期を盛り込んだ「権限移譲実施計画」の素案をまとめ、10月ごろの決定を目指す。府の「大阪発『地方分権改革』ビジョン」に基づくもの。対象となる事務(重複を含む)は、法律などで政令市に課された37件▽国の地方分権改革推進委員会の第1次勧告(昨年5月)が「基礎自治体に移譲すべき」とした75件▽府独自に移譲を認めてきた34件−−の3種類。すべてを移譲する場合、府は195人分の仕事量と1億2000万円程度の事務費に相当するとみている。
 権限移譲に必要な専門知識や経験を引き継ぐため、府はこれまでも職員派遣や市町村職員の研修を受け入れてきた。今後は、福祉や環境など分野ごとの市町村サポートチームの結成や、自治体と府職員のニーズが合致した場合の身分移管も検討する。また、個々の市町村で行えば非効率になるケースも考えられるため、市町村間での事務委託や、一部事務組合を活用した複数の市町村での共同実施も検討する。
 ◇来年度から3年、第1段階を実施
 府の構想では、こうした地方分権の成果を踏まえ、14年度以後は府が行う事務の半分程度の移譲を目標とする第2段階に移行。同時に、早ければ年内に設立される関西広域連合を活用し、府県を超えた環境や産業振興策の一本化を図り、10年代後半の「関西州」設立を目指す。【竹島一登】

同記事では,大阪府において,人口20万の都市制度が有する事務事業を,同府内に位置する市町村へ移譲を進めることで,市町村と同府の間で合意がなされたことを紹介.
同記事にある「政令市(人口20万以上)並み」を,同記事の文字面のみを拝読した時,政令指定都市制度の観察者の一人としては,政令指定都市並みの権限を全ての市町村に移譲するのか,又は,同府内に位置する人口20万以上の都市に移譲するのか,やや混乱.ただ,同記事にも紹介されている2009年3月に同府が取りまとめた『大阪発『地方分権改革』ビジョン』内の「工程表」を拝読すると,まず「第1フェイズ」として,「府内全市町村に特例市の権限を移譲します」*1と記されており,同記事内は,「ああ,「特例市(人口20万以上)並み」ということなのか」と確認.報道レベルにおいてもまた,自治制度(特に,都市制度の差異)の認知度はなかなか広まらないものかと,少し脱力気分.
政令指定都市制度とともに,「条例による事務処理特例」制度もまた,細々と観察対象とし続けている下名にとっては,同ビジョンはやはり興味深い内容が満載.同ビジョンでは,2010年度から,同府に位置する「全市町村に特例市の権限を移譲」する方針の以外にも,「国の地方分権改革推進委員会の第1次勧告の権限を移譲」(例示としては,保育所の設置,未熟児の訪問指導等),「河川・道路などの都市基盤施設にかかる権限を移譲」ともある.結果的には,「新たに約1,300条項の権限移譲を目指」し「これまでの取組とあわせて約2,000条項の移譲を実現」することが2009年度の目標.そして,2014年度の「第2フェイズ」からは,「大阪府でなくては担えない事務を除く全ての事務を市町村に移譲」する方針に立ち,「大阪府の全ての権限(約8,000条項)のうち」で「半分(約4,000条項)を超える権限の移譲を目指」すとある.
ただ,同内容,「他府県での移譲実績を踏まえて」(15頁)と,その内容の大胆さに比べれば,意外にも「横並び競争」*2的な保留条件はある.下名個人的には,まずは市町村からの「事実上の同意」を踏まえてが前提ではないかと思わなくもないが,このような「横並び競争」を保留する方針としては,中央地方関係における「選挙メカニズム」以外での説明を要する「政治的意思」や「政治的動態」(74頁)が,そこにはあるからなのだろうか,興味深い.
また,同ビジョンでは「市町村を超える広域事務,市町村の補完・調整」とあるものの,では,「大阪府でなくては担えない事務」とは具体的に何が想定されているかは,よく見えない部分もなくはない.また,2008年3月8日付の本備忘録でも少し触れた,いわゆる「まだら分権」状態となった場合には,控除説を採用するとすれば,「市町村の補完」概念に包摂されることで,残余的事務事業は全て同府が担当することも予期しているということなのうか,現況を踏まえて要経過観察.
なお,同ビジョンでは,2009年4月26日付の本備忘録でも言及した,自治業界への加入以来,思案し続けている「二重行政」論についても言及.曰わく,「事務が法令上一つの主体に専属していないことや,事業規模の大きさや事務の対象範囲等によって国,都道府県,市町村が一定の役割で分担することから,それぞれが重複して同様の事務を実施していること.国・地方を通じた行政の簡素化・効率化(組織・人員や事務手続き等の面)のため,その解消が求められている」(2頁)と,国・都道府県・市町村間の多重性や「輻輳」性から,その現況と改善方向を明記.中央・地方間の観点から同用語が用いられることはあっても,その議論の外延を,都道府県・市町村間にまで広げたうえでの議論を試みようとする同ビジョンは,これまた,興味深い.