総務省は23日、国と自治体の間でトラブルが起きた場合の新たな処理策を検討するため、有識者による研究会の初会合を開いた。東京都国立市などは住民基本台帳ネットワークに参加せず、国の呼び掛けにも応じていない。現行制度では解決策がないため、国が自治体を訴えるなどの新手法を年内をめどにまとめる。
 「国・地方間の係争処理のあり方に関する研究会」の初会合では、座長に塩野宏東大名誉教授を選出。国が違法状態にある自治体を裁判所に提訴できない現状に対し、訴訟を起こせる新しい仕組みなどを検討することにした。同省は研究会の結論をもとに、自治体の意見も聞いたうえで、来年以降に地方自治法の改正などに取り組む考え。

同記事では,総務省において,自治体と国の間での係争処理に関する検討会が設置されたことを紹介.同研究会の開催案内については,同省HPを参照*1.会議資料等の審議の詳細については,現在のところ,未だ公開されておらず,残念.
同開催の案内に関する資料を拝読すると,同研究会では「国の是正の要求・指示に対し,地方公共団体がこれに応じず,かつ,審査の申出も行わない場合」には,「係争処理手続等が活用されず,問題が解決されないまま継続するという課題が残されてきたところ」(3〜4頁)として,「現実にそのような事態が生じている」(4頁)とのことから,「公正で透明な国・地方間の係争処理のあり方等について,検討を行うことが必要」(同頁)との認識に基づき設置とある.
同研究会については,2009年4月22日付の同紙において報道されていた*2住民基本台帳ネットワークシステムへの「接続を拒否している地方自治体に対し,総務省が参加を促す立法措置」として「総務相自治体を相手に提訴できるようにしたり,当該自治体の住民投票を経た特別法を制定したりする案」の具体的な検討の場となる模様.今後は「8月以降概ね月1回ペースで開催」され,「11月頃」には「報告書の取りまとめ」がなされる予定とのこと.
同研究会の審議の端緒は,住民基本台帳ネットワークシステムが想定されていたとしても,同議論の淵源は,いわずもがな地方分権推進委員会.同委員会の勧告から法案化までは,いわゆる「何も足さない,何も引かない」路線とは異なり,「国から第三者機関への申出と裁判所への訴訟提起」*3の制度化案については,1997年10月に提出された『第4次勧告』の段階では,「是正措置要求又は指示の相手方である地方公共団体の長等を相手方として,当該是正措置要求又は指示に従わないことが違法であることの確認の訴えを提起することができる」*4とは明記されてはいたものの,その後,1998年5月の『地方分権推進計画』段階では,これを「申出,もしくは訴えることはできない」こととされ,更に地方分権一括法の段階では「法案でもその趣旨が踏襲された」(前掲・島田2007:179頁)とある.そして,同制度化へと至らなかったことによる,反射的効果なのだろうか,「法案段階で突然いくつもの個別法に国の直接執行が設けられたり,自治法上,是正の要求について是正改善義務が課せられることととなった」(前掲・島田2007:180頁)とも観察されることもある.
同研究会の審議及び取りまとめの内容については,今後の状況次第ではあるものの,国から自治体に対する,いわば「義務付け訴訟」のような制度化が想定されているとすれば,それに付随した,これらの副次的波及効果についてもどのように変更される仕組みが整備されることになるか,「分権10年」後の一つの制度的様相としては,かなり重要な審議課題とも考えられそうだが,同研究会の審議状況は,要経過観察.楽しみ(なお,他紙では経緯を含めて報道されている様子がないことが,これまた残念).

*1:総務省HP「報道資料「国・地方間の係争処理のあり方に関する研究会」の開催」(平成21年7月21日)

*2:日本経済新聞社(2009年4月22日付)「住基ネット,「不参加」是正へ立法措置 総務省が検討

*3:島田恵司『分権改革の地平』(コモンズ,2007年)179頁

分権改革の地平

分権改革の地平

*4:内閣府HP(地方分権推進委員会)『第4次勧告第3章 国と地方公共団体との間の係争処理の仕組み』(平成9年10月9日)