花巻市は分権施策「小さな市役所」の見直しのため8月まで、27カ所ある住民組織・コミュニティ会議と意見交換を進めている。施策は3年目を迎えたが、住民の戸惑いや疑問は根強い。とりわけ同会議に分配されている「地域づくり交付金」の活用については、市が使い道を会議側に委ねている事情もあり、まだまだ試行錯誤の状態。施策の将来像が見えない中、地域の模索は続く。
 意見交換会で市は、年間2億円をコミュニティ会議に配分している交付金について、算定基準の見直し案を提示。道路の舗装や側溝の修繕、防犯灯の設置などハード事業に交付金の6割以上が充当されている実態を踏まえ、農村や中山間地など周辺部により手厚くするという内容だ。しかし、各地の意見交換では「ハード事業をどこまで地域が担うのか分からない」「10万〜20万円の増では道路などは手を出せない」「人材育成が大事。(子育て支援環境保護、世代間交流など)ソフト事業を主体にすべき」など見直し案や同会議の現状に疑問が噴出した。
◇見えぬ将来像
 中には「交付金消化のため、(旅費のかかる)市外の人を頼んで事業をしている」と無駄遣いとしか考えられない話まで飛び出した。交付金の使途について「指針」が必要とする声に、同市地域づくり課の役重真喜子課長は「地域が自らの課題を考え、優先順位を付けて解決していくのが目的。行政が使途の枠をはめれば、地域が考える芽を摘む」と強調。現段階で、市が交付金の使い道に介入することには否定的だ。東和町浮田地区での意見交換で、コミュニティ会議の役員女性は「(「小さな市役所」は)将来展望がなく、どの程度力を入れて取り組んでいいのか、不安が常にある」と思いをぶつけた。市職員2人を配置する振興センターを拠点に、同会議が交付金を活用し地域づくりに励む「小さな市役所」。花巻独自の分権施策は、住民の地域づくり意識を刺激するとともに、市に要望しても長く実現しなかった生活道路や防犯灯の整備が促進された―などという評価がある。半面、大石満雄市長就任後に行政主導で始まったため、既存の自治会や公民館活動との役割は整理が不十分で、長期を見据えた運営体制や交付金額、市の支援は不透明だ。
◇定着への課題
 各コミュニティ会議は地域の課題意識やその解決作業を通じ、いや応なしに自らの地域力を問われている。「地域のことは地域で」を大前提としつつも、「市は疑問や問題への対処方針、対策を可能な限り示してほしい」との地域の声は強い。市は「施策は始まったばかり」との認識だが、分権の定着には住民の戸惑い解消がまず求められる。

同記事では,花巻市における「地域分権」の取組について紹介.同取組については,同市HPを参照*1
同会議は,同市内の「27ヶ所」に「地域づくり支援職員として2名の市職員が常勤」することで,「地域づくり支援」「生涯学習活動の拠点」,「市役所窓口(各種証明書の発行)業務」を行うために設置された「振興センター」毎に「各振興センターの管轄単位ごとに市長が指定した地域づくり団体」*2として設置.「市内27の地区ごとに特色あるまちづくりを進める自治活動組織」として,「平成19年4月以降」「それぞれの地区で組織化」されており,「地域の様々な課題解決に向けた」取組が実施されているという.
また,同市では,地方自治法に基づく地域自治区を設置されおり*3,それぞれにの地域自治区に地域協議会が置かれている*4されている.同市では,「小さな市役所」路線を通じて,いわば,濃密な「地域分権」に向けた制度化が整備されている模様.両機関での役割分担としては,恐らくは,前者(コミュニティ会議)が,同市からの交付金を受けて,「市区町村が現に処理しない事務で,近隣政府の住民が自主的に処理しようとする事務」である,いわゆる「近隣地域における事務」*5に関して企画立案・実施とすれば,後者(地域協議会)では,「地域の意見をまとめ」「意見を述べる機能」*6を果たされていると理解すると良いのだろうか.ただ,同記事のような現況の紹介に対して,交付金を持つ自由度という特性を保持しつつ,その用途を拘束することない,適正な「地域レベル」でのモニタリングや牽制関係の仕組みとして,下名としては,両機関間での「連結」(239頁)の可能性もまた想定できそうだが,どうなるのだろうか.要観察.

*1:花巻市HP(まちづくり部地域づくり課)「小さな市役所(振興センター)

*2:花巻市HP(まちづくり部地域づくり課:「小さな市役所(振興センター))「花巻市地域づくり交付金交付要綱」(平成19年4月1日告示125号)第2条

*3:花巻市HP(市政情報花巻市例規集)「花巻市地域自治区設置条例」(平成18年1月1日条例第22号)

*4:花巻市HP(まちづくり部地域づくり課:「小さな市役所(振興センター))「地域協議会等

*5:財団法人日本都市センター編『近隣政府の制度設計』(2003年)20〜21頁

近隣政府の制度設計―法律改正・条例制定に係る主な検討項目

近隣政府の制度設計―法律改正・条例制定に係る主な検討項目

*6:大橋洋一行政法Ⅰ』(有斐閣,2009年)239頁

行政法〈1〉現代行政過程論

行政法〈1〉現代行政過程論