全国知事会は8日、自民、民主、公明3党の衆院選マニフェスト政権公約)のうち地方分権への取り組みに関する採点結果を発表した。100点満点で自民党は60.6点と民主党の58.3点をわずかに上回った。最高点は公明党の66.2点。評価をまとめた古川康佐賀県知事は「各党とも地方分権改革を重視するようになった結果、小差になった」と分析した。知事会が事前に設定した評価基準に基づき、29人の知事が採点作業に参加。平均値を各党の点数とした。

同記事では,全国知事会において,2009年8月7日を「地方分権改革に関する公開討論会」を開催し,その結果を踏まえて,当該討論会に参加された各党のマニフェストへの評価を行ったことを紹介.同評価点については,同会HPを参照*1
8項目の評価基準のなかで,最も配点が高い「分権改革を実現する仕組みの構築〜国と地方の協議の場の法制化〜」(30点)については,「国と地方の協議の場の法制化が明記され,さらに地方の同意等地方側の権限が明記」(30),「国と地方の協議の場の法制化が明記」(15),「国と地方の協議の場の法制化が検討・努力目標」(5)から評価がなされており,その結果,同項目については,自民党は16.9点,公明党が22.3点,民主党が18.2点とされている.
「国と地方の協議の場」に関しては,「自治体の国政参加の場の存否は,重要」*2であることは確かであり,「これまでの上位下達の回路を通じて,自治体が国政に意見を反映してきた」ものの,このような既存の「回路」と新たな「場」との間には,金井利之先生によると,まず「回路」である場合には,「国政参加の回路の非対称性であり,国は回路を遮断する自由がある」(94頁)ことがあり,一方で「場」となることによると,「場とは双方向の回路の束にあり,単なる回路よりはるかに多くの実質的な意見調整が可能」(同頁)になり,更に「回路では意思伝達は可能ではあるが,意思決定はできない.場では,合意・意思決定をするかしないかを含めて明確にしなければならないが,回路は「聞き置く」ことが可能」(同頁)との相異があるとされる.果たして,「協議の場」がその名の通りの「場」となるのか,又は,現行の「回路」に加わる,(混線気味の)新たな「回路」となるのか,要観察.
ただ,よく分からない点が,各党及び知事会が想定されている「地方」,又は,その「地方の代表」という概念.ドイツ,フランス,スウェーデンを中心に同種の機関の現況について取りまとめた,財団法人日本都市センターによる報告書を拝読すると,「技術的な問題」との前提があるものの(下名,個人的にはむしろ本質的な論点とも思わなくもありませんが),「国によって「国と地方」という概念そのものが決定的に異なっている」*3とあり,「地方」とは確定的な概念ではない.
一方で,現在の「国と地方の協議の場」の構想の淵源が「(仮)地方行財政会議」にあるとすれば,同構想内での同場の構成は,国側は「内閣官房長官総務大臣財務大臣,他関係大臣」と「国会議員」,一方,地方側に関しては「地方六団体各代表」とある.また,同場には,「政府推薦者と地方推薦者の同数」からなる「民間有識者」も加えることとされている.そして,同会議の「議長」は,「内閣官房副長官全国知事会会長を共同議長」にするともされている.なお,同構想では「独自の事務局を設け,政府と地方からの参画とする」ともある*4.同構想における「地方」という概念のデフォルトは,いわゆる地方六団体にあるともいえそう.今回の「国と地方の協議の場」における「地方」の概念もまた,各政党においても同様の構成から想定されているだろうか.
ただ,仮に,上記の全国知事会の評価点内にある「地方の同意等地方側の権限」が同機関に付与されることになるとすれば,同意・不同意の判断に至る際の「正統性」の課題(換言すれば「委任」*5の課題)もあるようにも考えられる.その場合,現行の地方六団体のままで同判断を委任してよいのか(可能であるのか),又は,委任関係を明瞭にするために,各地方六団体(及び各団体間の関係)のあり方・位置付け(特に,「地方」代表の選出方法(全国知事会会長が「共同議長」であることは,必ずしもデフォルトであるとは思わなくもないのですが))を見直す必要があるか,更には,「地方自治保障院(仮称)」*6の設置もその一つかもしれないが,地方六団体とは別にこれらの判断をしうる「地方」なる代表機関を新たに設けるのか,考えてみると難しい.
なお蛇足.下名個人的な観察関心からは,国と地方の関係整序のための国と地方の「協議の場」のみならず,「地方」と「地方」との間の関係整序のための地方間での「協議の場」(つまり,市区町村と都道府県間での協議の機関として,市区町村側に,上記の全国知事会の表現に倣えば,「同意等」の市区町村「側の権限が明記」された機関)の「必置」もまた,明記されるとより整然となるのではないかとも思うが,どうだろう.

*1:全国知事会HP(政権公約評価結果の公表及び麻生全国知事会会長コメントについて(2009年8月8日))「地方分権政策に関する政権公約評価結果」(平成21年8月8日 全国知事会),又,「地方分権改革に関する公開討論会」の録画映像が8月17日まで配信されており,税財源面を中心にマニフェストだけでは,よく分からなかった部分の理解ができる.ただ,8月18日から配信停止になることは致し方ないとしても,衆議院選挙後の8月30日以降には,配信を再開頂けると,発言の検証もできてよいのですが.

*2:金井利之「「国と地方の協議の場」の成立と蹉跌」森田朗・田口一博・金井利之編著『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)94頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

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*3:財団法人日本都市センター編『国と地方の協議の場(協議機関)の国際動向』(財団法人日本都市センター,2008年)9頁

国と地方の協議の場(協議機関)の国際動向

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*4:地方六団体地方分権改革推進本部HP(過去の地方分権改革新地方分権構想検討委員会)新地方分権構想検討委員会『『豊かな自治と新しい国のかたちを求めて 地方財政自立のための7つの提言と工程表』』(平成18年5月11年)12頁

*5:アーサー・ルピア,マシュー・D・マカビンズ『民主制のディレンマ』(木鐸社,2005年)15頁

民主制のディレンマ―市民は知る必要のあることを学習できるか?

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*6:西尾勝地方分権改革』(東京大学出版会,2007年)165頁

地方分権改革 (行政学叢書)

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