• 多摩地域における庁舎機能等についての調査報告書〜庁舎に求められる機能を考える〜』(財団法人東京市町村自治調査会,2009年)

東京都に位置する市町村において,「自治の振興を図り,住民福祉の増進に寄与することを目的とした市町村共同の行政シンクタンク」である同調査会が,東京都内の「多摩地域」の「各市町村の条例で位置を定めた市役所・町村役場」である「本庁舎」(3頁)を対象として,「庁舎機能等に関する事例調査」「自治体アンケート調査」「来庁者アンケート調査」(3〜4頁)の実施を通じて,「庁舎の現状や課題」「窓口サービス機能の充実」「環境負荷軽減対策などのこれからの庁舎に求められる機能」「庁舎の建替えを行う際の市民意見の反映手法」(はじめに)等を整理・分析された報告書.
同報告書では,「多摩地域の市町村職員を主な読者に想定」(はじめに)と記載はされてはいるものの,いわずもがな,2008年12月7日付の本備忘録に構成を立てて以来,本備忘録のお馴染み(断続的)観察課題の一つである「庁舎管理の行政学」の関心をもつ下名にとっては,闇のなかに突如として出現する一群の灯の如き,同行の先達にお逢い出来たかのような,嬉しい報告書.同報告書の内容は,同調査会HP*1から拝読させて頂くことが可能ではあるものの,是非とも手に取って拝読したく,購入.
特に参考資料編に掲載されている「資料1自治体アンケート調査結果」に基づく分析は,多摩地域における全体的な庁舎管理の傾向性の把握のみならず,そもそも初めて知る事象も多く,大変勉強になる.例えば,「執務スペースの狭隘化」を分析した節では,多摩地域の本庁舎の「職員一人当たりの執務スペース」が調査されおり,同地域における職員の方々の執務空間の様子を窺い知ることができる.その結果からは「平均は8.4㎡」とある.下名の経験的観察からの推測(もちろん,実測したことはありません)からすれば,やや広い結果が出ているなあと思いつつも,一方で,「6㎡に満たない庁舎が7件」,更には,「総務省が定める記載算定基準」「における一般職員の基準面積4.5㎡に満たない庁舎」が「4件」(9頁)ともある.
また,庁舎の立地に関しては,「本庁舎所在地を用途区域別」に分類した場合,「第2種住居地域が45%と最も多く,住居系地域が60%(住宅専用系地域)は15%」を占めており,2008年4月4日付同年7月15日付2009年4月日付の両本備忘録で言及した「郊外型庁舎」とは異なる立地類型(「住宅地型庁舎」でしょうか)が明らかにされている.同報告書では,同結果を踏まえて,「各市町村の本庁舎においても周辺の住環境に配慮した機能の検討が必要」(80%)との分析結果が示されており,「住宅地型庁舎」であるからこそ,その空間的利用に伴う住民との関係性を如何に図るかが切実な課題であることも分かる.更に,「庁舎の有効利用」(68〜70頁)策の結果も紹介されている.「情報提供コーナー」の設置が28都市(90%),「産業支援スペース」の設置が10都市(32%),「市民交流やイベント,展示等のための常設スペース」は7都市(23%)と,特定目的よりも,広範囲の情報提供の場としての庁舎という空間が利用されている様子も分かる.また,「会議室の市民開放」に関しては,5都市(16%)であった.ただ,庁舎内の会議室利用については,日々の執務における会議室の利用との優先度の問題,不特定者が利用することになる庁舎全体でのセキュリティの問題からも,検討課題とは考えれる,同報告書では,平塚市における登録制や,利用料負担にる開放を行う高山市の取組を紹介し,その可能性が必ずしも限られているものではないことも紹介.なるほど.
他にも,「最寄り駅から所要時間」(資料編13頁)や2008年3月4日付の本備忘録でも「妄想」してみた「役所食堂の行政学」を考えるうえでも基本的データともなり得る,「本庁舎の付帯設備」としての「食堂」(36〜38頁)についても調査されており,その「設置」状況,「位置づけ(「職員の福利厚生施設としては来庁者にかは開放していない」か,「職員の福利厚生施設ではあるが,来庁舎にも開放している」か,「誰でも利用できるレストランとして位置づけらている」か),「光熱費負担」,「食堂賃料の負担」,「食堂以外の有人の飲食提供施設」の有無等も把握することができる.庁舎管理の観察者(といっても,そのような観察関心を共有いただける方が,どれほどおられるのか,全く分かりませんが)にとっては,必読の一冊.