福岡県筑後市が30年以上にわたり条例に定める基準を上回る金額の賞与(期末・勤勉手当)を職員に支給、同市の男性(65)が割増分を返却するように監査請求していた問題で、市監査委員は5日、請求を棄却した。監査委員は、割り増し支給を「条例の誤った解釈に基づくもの」としながらも、「請求すれば市当局と職員の信頼が損なわれる」と説明した。
 市は勤勉手当を「給料月額と地域手当を足した額に、市長が定める割合(今夏から0.70)をかけた額」と条例で規定。しかし、規定のない扶養手当も含めて支給額を算出していた。市は今夏の賞与から是正したが、男性は8月、基準を上回る賞与を受け取った職員に、過去5年にさかのぼり、割増分を返還させるよう求めた。市によると割増分は、職員約260人分で年間約800万円とみられる。
 監査結果の通知書によると、基準を上回る支給を「条例の規定の不備と当局の認識の不足にある」と指摘。「責任はすべて市当局にある」と結論付けた。しかし「職員個々には直接責任があるとは言えない」とし、「返還請求すれば、市当局と職員の間の信頼関係を損なうことは明らかで、円滑な行政運営に支障を来し、適当でない」と棄却理由を説明している。男性は「割増分は市民の税金から払われている。市民との信頼関係は損なってもいいのか」と話し、監査結果の取り消しや割り増し支給分の返還を求める住民訴訟など、今後の対応は弁護士と相談し決めるという。
 特定非営利活動法人NPO法人)市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は「監査委員は、市の間違いを認めながら、返還をさせないのは及び腰としか言いようがない。お手盛りに協力しているとみられても仕方がない」と批判している。

同記事では,筑後市における住民監査請求に対して,請求を棄却されたことを紹介.同市における監査請求内容及び結果を拝読させて頂ければと,同市の監査委員に関するHP*1の確認を試みるものの,現在のところ,把握できず.残念.
「住民監査請求・住民訴訟などで登場する住民は,組織としての自治体に比して,通常の場合には微力である.自治体(首長)引力は住民引力より相当強く,したがって,監査制度も自治体行政システムに引き寄せられる」*2とも解される,監査制度.「この力の不均衡を是正」するうえで「独立性の実効化が不可欠」(136頁)ともされており,その場合,2009年4月15日付でも触れ,同年6月17日付の本備忘録において紹介した,第29次地方制度調査会の答申内における,「監査体制の強化」の観点からの監査委員「事務局の共同設置を制度が検討されるべき」*3との提案を受けて,総務省に設けられた「地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会」*4の検討内容は,その独立性という観点からも化合しそうな議論.
同研究会では,第2回研究会において「共同処理による効果が期待できる事務のメルクマール」の「たたき台」が提出されており,監査委員事務局は,「規模の拡大により,効率化が可能」,「専門性が高く,一定の規模が必要」,「客観性・独立性が必要」*5の3つのメルクマール全ての該当する事務として,「介護認定審査会,障害区分認定審査会,公平委員会」と「情報公開審査会等」とともに,位置付けられている.
勿論,その独立性が「組織上のものとオペレーション上のもの」*6との区別があることは想定されるものの,「離隔距離」*7の確保方策の検討状況は,要経過観察(そういえば,同議論を待たず,検討を始めたことが報道され,2009年7月10日付の本備忘録でも取り上げた臼杵市の検討状況はどうなったのだるか.こちらも要確認.また,下名個人的には,同研究会の村上委員より,同回資料3-7として配付された「第2回研究会検討事項」*8内にある「事務の逆権限委譲(執行委任)について」の提案の制度化が具体化されるかもまた要確認).

*1:筑後市HP(行政情報市の取り組み)「監査

*2:金井利之「住民による行政の監視」人見剛・辻山幸宣編『協働型の制度づくりと政策形成』(ぎょうせい,2000年)136頁

協働型の制度づくりと政策形成 (市民・住民と自治体のパートナーシップ)

協働型の制度づくりと政策形成 (市民・住民と自治体のパートナーシップ)

*3:総務省HP(以前の新着情報(会議資料・開催案内・他))第29次地方制度調査会『今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申』(平成21年6月16日)16頁

*4:総務省HP(組織案内研究会等)「地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会

*5:総務省HP(組織案内研究会等地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会第2回(開催:平成21年9月17日(木)))「資料2-2 共同処理による効果が期待できる事務のメルクマール

*6:マイケル・パワー『監査社会』(東洋経済新報社,2003年)183頁

監査社会

監査社会

*7:金井利之「会計検査院政策評価」『行政の評価と改革』(ぎょうせい,2002年)60頁

行政の評価と改革 (年報行政研究 (37))

行政の評価と改革 (年報行政研究 (37))

*8:総務省HP(組織案内研究会等地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会第2回(開催:平成21年9月17日(木)))「資料3-7 第2回研究会検討事項