総務省は28日、昇格できなかった職員にも年功序列で上級ポストと同等の給与を支給する「わたり」制度を219の地方自治体が採用しているとの調査結果をまとめた。全自治体の約12%にあたり、職務や責任に見合った給与の支給を求める地方公務員法の趣旨に反するという。同省がわたりの実態を調査したのは初めてで、今後各自治体に是正を促す。
 4月1日時点でわたりを導入していたのは大阪府政令市の岡山市のほか217市町村。自分の役職より格上の給与をもらっている職員数は2万228人に上った。都道府県別では北海道の33市町村が最も多く、長野県(32)、大阪府(25)、鹿児島県(17)が続いている。
 一般的にわたりはポストの不足などで昇格できないベテラン職員を給与面で「救済」するために導入されたケースが多い。大阪府の場合、係長級のポストを一定期間つとめた職員1964人に対し、1ランク上の役職である課長補佐級の給与を支給していた。

同記事では,総務省による「平成21年地方公務員給与実態調査結果」の結果を紹介.同調査結果に関しては,同省HPを紹介*1.同調査結果では,「給与管理の諸技術」*2ともされる「わたり」の実施状況を整理されている.
同調査においては,「わたり」を,「①給与決定に際し,級別職務分類表及び級別標準職務表に適合しない級へ格付を行うこと」として,「② ①の他,実質的にこれと同一の結果となる級別職務分類表,級別標準職務表又は給料表を定めること」*3と定義.同定義の下での調査結果としては,全自治体では,同記事でも紹介されているように219自治体.区分別では,都道府県が1自治体(大阪府),政令指定都市が1自治体(岡山市),その他の都市が127自治体,町村は90自治体(なお,特別区は0区)となる.
また,政令指定都市を除いた,「「わたり」の制度がある市区町村の状況」として,それぞれの市区町村が位置する都道府県区分毎に,整理された資料「参考3−3」を拝見すると,同記事でも紹介されているように,北海道区域内では最多の33.その他の都道府県区分毎での実施状況は,山形県区域内では2,福島県区域内が1,群馬県区域内が1,埼玉県区域内が5,東京都区域内は15,新潟県区域内が3,富山県区域内が2,長野県区域内32,岐阜県区域内が4,京都府区域内が4,大阪府区域内が25,奈良県区域内が16,和歌山県区域内が1,岡山県区域内が1(なお,上記の通り,岡山市を除く),山口県区域内が1,徳島県区域内は5,香川県区域内が3,高知県区域内が355,佐賀県区域内が6,熊本県区域内が5,大分県区域内は15,宮崎県区域内は6,鹿児島県区域内は17,沖縄県区域内は6*4となる(記載のない県区域名は,当該区域内に位置する市町村において「わたり」が実施されていないことになる).なお,同調査結果は,2009年4月1日現在での実施状況を把握されているため,例えば,2009年7月1日付の本備忘録で紹介した多摩市の給与体系の改定の取組は反映されていない模様.
2009年7月1日付の本備忘録において紹介した多摩市における「1職2級制度」を制度化」に際しては,「東京都の給料表に移行」*5と「模倣導入」*6された経緯が示されている.上記の各都道府県区域毎で実施状況の差異を拝見すると,その「わたり」の実施市町村毎での採択経緯においては,「都道府県が階層的につながっていると見る場合」での「都道府県」との「構造同値」による「垂直波及」*7によるものであるのか,または(まさに「わたり」的とも整理できそうな)「相互参照と横並び競争」*8に帰因するものであるのか,考えてみると興味深い課題.要確認.

*1:総務省HP(広報・報道報道資料一覧2009年12月平成21年地方公務員給与実態調査結果の概要)「平成21年地方公務員給与実態調査結果の概要(平成21年4月1日現在)」(総務省,平成21年12月).なお,同日には,同省からは,「平成21年地方公共団体定員管理調査結果の概要」と「平成20年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」も報道資料として公開.いずれも重要な調査結果.

*2:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)209頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*3:前掲注2・総務省地方公務員給与実態調査2009年:15頁

*4:前掲注2・総務省地方公務員給与実態調査2009年:17〜18頁

*5:多摩市HP(ようこそ市長室へ市長メッセージ)「職員の給与の適正化に向けて(平成21年6月)

*6:西尾勝『行政の活動』(有斐閣,2000年)182頁

行政の活動

行政の活動

*7:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶応義塾大学出版会,2002年)37頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

*8:前掲注9・伊藤修一郎2002年:285頁