地域主権の確立に向け、大阪府から新たな地方自治制度を政府に提案しようと、学識経験者らによる研究会の初会合が22日、府庁で開かれた。
 初会合で、橋下徹知事は「大阪府大阪市は意思決定がばらばら。政令市という中途半端な仕組みのもと、大都市運営ができないメカニズムになっている」と二重行政の弊害を指摘。「アジアで競争するために、しっかり稼ぐ強い広域行政体をつくりながら、優しい基礎自治体で住民サービスを充実させる。それが僕が念頭に置く都市の在り方」と述べ、活発な議論に期待感を示した。
 研究会は橋下氏の肝いりで発足。学識経験者らが月1回程度のペースで地方自治制度の問題点などを議論。夏ごろに素案、年末に最終取りまとめを出し、地方の自立的な経営を可能とする「地方政府基本法」の制定などを政府に働き掛ける方針だ。

本記事では,大阪府において,地方自治制度に関する研究会が設置され,第1回が開催されたことを紹介.同会に関しては,同府HPに掲載されている同会設置要綱を参照*1
同設置要綱第1条では,同会の目的を「地方自治法の抜本改正の検討,地方政府基本法の制定に向けて,大阪から新たな自治制度を提案すべく,大都市制度のあり方について調査・研究を行うため」と規定.所管事項としては,「大阪における自治制度を取り巻く課題」「広域自治体基礎自治体の役割分担」「大都市制度のあり方」と概括的な事項が提示されている.そのた,同規定及び本記事を拝読する限りでは,いわゆる「大阪都構想」に関する審議に既定されているようではない模様(なお,2010年4月22日付の毎日放送の報道では,「「大阪都」構想 研究会発足」*2と,映像とともに紹介).
大阪都構想」.仮に,同構想でいう「都」化が,地方自治法第3条第2項により「法律事項」(正直なところ,「法律事項」とされている点は,下名は,良く理解ができないのですが)とされる「府」から「都」への名称変更手続に限定されない場合,例えば,既存の普通地方公共団体としての「市」を特別地方公共団体としての「区」へと配置分合することにより「地域的・空間的要素」「人的構成要素」「法制度的構成要素」を「備えた地方公共団体*3から,「特殊・例外的な目的と権能をもち」「その組織も特殊」となる「特別地方公共団体」への移行は可能となるのかは,下名個人的には現在のところ,上手く整理ができないため,同研究会において,どのように整理されるかは,興味深い観察点.
重ねて,同手続が実現された場合,設置された「特別区」に関しては,まずは,東京都区部において存在する「東京市以来の一体性言説」*4という「ドクトリン」*5を,同「特別区」総体の区域内において再生産することになるのか,更には,同「特別区」個体においては,市から,いわば「都の「区」」*6として「希釈化」*7されることになるのだろうか.これまた,興味深い観察点.
広義では,同研究会もまた「審議会」と整理すれば,「合議制原理によって,専門家たちの一種の綜合を試み,彼らを一つの集合体〔合議制機関〕にまとめようと企図」され,「行政の「脱主観性」のための」*8の場である審議することが想定されそう.ただ,都区制度への移行手続及び都区制度自体への改革事案については,東京都及び特別区における審議,更には,同府において設置されてきた既存研究会における審議等も含めてほぼ表出(蓄積)されているようでもあり,新たな論点に関して,審議する時点というよりも,むしろ,「政治主導で決断されないかぎり実現できないもの」*9が想定されなくもない.そのため,「審議会主導型改革の蹉跌」*10も内包されているのではないだろうかとも思わなくもないものの,同研究会における審議状況は,要経過観察.

*1:大阪府HP(報道発表資料第1回大阪府自治制度研究会の開催について)「大阪府自治制度研究会設置要綱」.構成されている委員の方々は,次の通り.青山彰久(読売新聞東京本社編集委員),赤井伸郎(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授),金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科教授),郄林喜久生(関西学院大学経済学部教授),新川達郎(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)

*2:毎日放送(2010年4月22日付)「「大阪都」構想 研究会発足

*3:松本英昭『新版 逐条地方自治法第5次改訂版』(学陽書房,2009年)18頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*4:大杉覚「地方自治の「東京問題」を考える」『地方自治職員研修』2007年7月号,15頁

地方自治職員研修 2007年 07月号 [雑誌]

地方自治職員研修 2007年 07月号 [雑誌]

*5:牧原出『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会,2009年)20頁

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

*6:特別区協議会HP(調査研究特別区制度調査会第二次特別区制度調査会)『「都の区」の制度廃止と「基礎自治体連合」の構想』(財団法人 特別区協議会,特別区制度調査会,平成19年12月)7頁

*7:金井利之『自治制度』(東京大学出版会,2007年)202頁及び真渕勝『行政学』(ぎょうせい,2009年)387頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

行政学

行政学

*8:マックス・ウェーバー『支配の社会学Ⅰ』(創文社,1960年)129頁

支配の社会学 1 (経済と社会)

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*9:西尾勝地方分権改革』(東京大学出版会,2007年)209頁

地方分権改革 (行政学叢書)

地方分権改革 (行政学叢書)

*10:伊藤正次「国による「上から」の分権改革」森田朗・田口一博・金井利之編著『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)32頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)