北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市)は2日、自治体や企業が条例や規定を作る際にコンピューターで他の条例や規定と矛盾がないかを簡単に確認できるシステムを開発したと発表した。実用化に向け、民間企業などとの共同研究を模索する。
 情報科学研究科で人工知能を専門とする東条敏教授の研究グループが開発した。整合性を調べる手間が軽減できる。条文作成担当者の数が限られる自治体では導入効果が大きいと見ている。
 開発では富山県が2003年に一部改正した電子申請に関する条例を検証。対義語や否定語の使い方が正しいか、他の条例に使っている用語との矛盾がないか、用語の定義が正しく使用されているかなどを調べたところ短時間で手作業とほぼ同様の結果が得られた。自治体のほか、企業の規則、大学の学内規定の改正などでの利用を見込む。

本記事では,能美市内に位置する北陸先端科学技術大学院大学において,自治体等が制定する条例等が,他の条例等との「矛盾」の有無を把握できるシステムを開発されたことを紹介.詳細は,同大学HPを参照*1.同大学では,同システム構築を,「法令工学」として,位置付けられている.興味深い.
同システム構築の背景としては,まずは,「法令は,社会制度の仕様として,適切に表現されるとともに,関連法令も含め,矛盾なく整合的に制定・改正されなければな」ならないとの認識とともに,「従来,法令の制定や改正」においては,「法務担当者が法令の文書化,矛盾や整合性の確認を行」われているとの現状認識の一方で,社会の進展と複雑化とともに法令の数も増大し,大変な労力を要する」*2ことにある,という.
本記事でも紹介されている富山県における条例改正結果に対する,同システムを通じた検証も紹介.同検証手続は,「富山県の条例(富山県条例54号第1条−第10条,富山県条例55号第1条−第7条,富山県行政手続条例,富山県手数料条例,富山県職員旅費条例,富山県税条例登山届出条例)を論理規則として論理形式に変換」され,「同時にそれら条例に現れるさまざまな法概念を階層的に整理したオントロジーを構築し,整合性を検証」を試み,「論理的な矛盾を含まないかどうか」,「対義語や否定辞の扱い,対立概念の扱いにおいて整合的であるか」,用語定義の循環がないか」を検証.その結果,「条例の規則数は278」,「対立する概念のペアは11602個」がオントロジーデータから計算され,「検証の結果」,「「規則」「委員会の規則」「人事/公安/収用/教育委員会の規則」の概念間に依存関係」があり,「富山県の電子化に関わる条例改正は上記の意味で整合性を保持している」*3があるとの結論が示された,という.同システムに基づく結果,現在の法務担当者の方々による「人の手に頼っているのが実情」*4への,法改正における論理整合性が証明された,という理解が適当なのだろうか.
「「法令工学」の将来性」としては,「法令の作成・解析・保守を系統的に行う方法論」や「法令を施行する電子社会システムの開発・保守を系統的に行う方法論」が明らかにされることで,「明確で理解しやすい法令文がタイムリーに作りやすくなり,あるいは変更しやすくなり,社会の透明性・信頼性が向上」等の「社会的意義や波及効果」が想定されており,そのなかには,「法務担当者の負担が軽減される」*5との見通しも示されている.同種職において「法律に強い職員」のうち「職人型」*6として,「状況的実践」*7を通じて取得されるであろう法制執務という「職務能力」*8も,これらのシステムに代替されることになるのだろうか,要経過観察.