呉市営バスの2012年度からの民間移譲へ向け、市と市交通局は、移譲する事業者に広島電鉄広島市中区)を選んだ。30日の市議会公共交通問題対策特別委員会で報告した。
 11月上旬に事業者を募り、広島電鉄中国ジェイアールバス(南区)が応募。市幹部や学識経験者など11人の選定委員会が、書類やプレゼンテーションなどを審査した。特別委で市側は、安全性、利便性向上、経営安定性、交通局職員の処遇など9項目について、各委員の点数評価の合計を報告。220点満点で広島電鉄175・1点、中国ジェイアールバス151・6点となり「広島電鉄が路線維持の安定性、職員の再雇用、グループ企業による観光客誘致などの点で高く評価された」と説明した。選定を受け、広島電鉄は「呉市民の交通手段を守る社会的責任を痛感している。具体的な課題は今後、市と十分に協議していく」と説明している。

本記事では,呉市における市営バスの民間譲渡先の選定結果を紹介.同選定結果に関しては,同市HPを参照*1
同市では,「市からの財政支援を前提とした交通事業の維持・存続は困難」との認識に基づき,「現在の交通局を維持・存続していく案」として,「改善型地方公営企業」化と「民間委託拡大」化,そして,「交通事業を民間事業者へ移譲する案」として,「子会社化(段階的民間移譲)」化と「一括完全民間移譲」化の大別すると2つ,個別には4つの「経営形態」の路線を2010年6月までに検討された後,後者の「民間移譲(民営化)」*2の路線を同年10月に選択され,募集がなされている.
募集時の「運行条件」を拝読させて頂くと,「平成24年4月1日から」「すべての運行を開始する」ことを条件として募集.民間譲渡の場合,しばししば,「譲渡時や数年後にある程度の路線整理が行われている例」*3もあることが観察されてはいるものの,本運行条件においては,「各路線」に関しては,「運行事業者が運行を開始してから平成26年3月31日までの間は,原則として移譲時の路線,系統,運行回数,運行時間帯及び運賃制度を維持すること」*4とあり,特定期間は現行の路線は「維持」されることが条件とされている.
募集後の評価結果を拝読させて頂くと,本記事でも紹介されている,2事業者に対する評価への,9項目の「評価対象」では,その8項目は,選定された事業者が,もう一方よりも高評価が示されつつも,「路線維持の安定性」に関しては,両事業者ともに「40」点「満点」中「30.0」点とある.ただ,評価された点に関しては,「公営交通事業で維持存続をした場合と比較して一定の財政負担額の削減が図られること」*5と,公営事業との場合での比較結果が示されることに止まり,何れかが「路線維持の安定性」に関して優位である旨等は,必ずしも判然とはしない模様.
上記「運行条件」では,「バス利用者の利便性の確保等公共交通機関の責務を十分配慮した上で,合理的な理由のある場合には,別途協議できる」*6とも記載されている.今後,仮に,路線整理の必要性が選定された事業者において検討された場合,当該条件にいう「別途協議」に関しては,同意を要する協議として,市側に拒否権が機能されるのか,又は,同意なき協議として,事業者による判断が尊重されることになるか,「管理された競争」*7としての今後の路線の状況についても,要経過観察.

*1:呉市HP(呉市営バス)「呉市交通局の路線移譲に係る運行事業者の選定について

*2:呉市HP(呉市営バス)「市営バスの民営化について

*3:寺田一薫「バス・タクシー市場」杉山武彦(監修)『交通市場と社会資本の経済学』(有斐閣,2010年)100頁

交通市場と社会資本の経済学

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*4:呉市HP(呉市営バス呉市交通局の路線移譲に係る運行事業者公募について)「呉市交通局の路線移譲に係る運行事業者公募要項」(呉市,平成22年10月)1頁

*5:前掲注1・呉市呉市交通局の路線移譲に係る運行事業者の選定について)

*6:前掲注4・呉市呉市交通局の路線移譲に係る運行事業者公募要項)1頁

*7:秋吉貴雄『公共政策の変容と政策科学』(有斐閣,2007年) 174頁

公共政策の変容と政策科学―日米航空輸送産業における2つの規制改革

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