来年度から都立高校で日本史を必修化するのに伴い、都は二十七日から、独自に作成した歴史教科書「江戸から東京へ」を市販する。都民から購入希望が多数寄せられたためで、都作成の教科書を市販するのは初めて。江戸幕府の成り立ちから現代までの東京の変遷について図や写真を多用し、理解を助ける工夫をしたという。
 都教育庁は二〇一二年度から、従来の「日本史A」「日本史B」に加えて「江戸から東京へ」を新設し、いずれか一科目を必修にする。都独自の教科書は都立高教諭や都職員らが作成し、都立高の生徒全員に既に配布した。A4判カラー刷りの計二百八ページ。六百四十円。都庁第一本庁舎内の都民情報ルームと三省堂書店都庁店のほか、紀伊国屋書店の新宿本店などでも販売する。問い合わせは都民情報ルーム=電03(5388)2276=へ。

本記事では,東京都における歴史教科書の作成と販売の取組を紹介.同取組に関しては,同都HPを参照*1
東京都教育委員会では,「日本人としての自覚を高めるため,高校生に日本史を継続して学ばせることが重要である」との認識に基づき「都立高等学校における日本史の必修化を決定」され,加えて,「東京都独自の日本史科目「江戸から東京へ」を開発」*2.作成された教科書*3を拝読させて頂くと,208頁からなる「1.幕藩体制の成立」から「34.国際都市東京」までの34章立て.
嘗て「首都東京の政治史は,国家レベルおよび地方レベルのどちらにも入らず,位置づけが明確ではない」として,結果,「都政が見えない」*4との分析がなされたこともある.では,同教科書では「首都東京の政治史」をどのように扱っているのだろうか,と思い,例えば,都知事に関する記述を確認してみると,確かに,「27.憲法の制定と都知事の選出」の章で「27-(1)都知事を選挙で選ぶ」*5と題して,1947年4月の安井誠一郎の当選と知事就任に関する記述はある.しかしながらの他方で,同記述に留まり,これ以降の各知事への記述は皆無と,やや抑制的な模様.「歴史は,いつもなお可能性の世界であり,未完の事後説明」*6とすれば,描かれていない「首都東京の政治史」に関する歴史の可能性を「引き上げ」「引き寄せる」*7ことは,同教科書を利用された学生さんの皆さん次第ということか.

*1:東京都HP(東京都教育委員会特色ある教育活動)「「江戸から東京へ」テキスト(教科書)について

*2:東京都HP(報道発表資料平成22年報道発表資料)「「江戸から東京へ」テキスト(教科書)の作成について

*3:東京都HP(東京都教育委員会特色ある教育活動「江戸から東京へ」テキスト(教科書)について)『江戸から東京へ』(東京都教育委員会

*4:御厨貴『東京』(読売新聞,1996年年)1頁

*5:前掲注3・東京都(江戸から東京へ)129頁

*6:升味準之輔『なぜ歴史が書けるのか』(千倉書房,2008年)112頁

なぜ歴史が書けるか

なぜ歴史が書けるか

*7:前掲注6・升味準之輔2008年:112頁