今春の職員採用で初めて全国公募を実施した海士町。採用には漏れたが、豊かな自然や住民の人柄に魅せられ、<海士ファン>となった若者4人が町内に移住、4月から介護施設や公共施設で臨時職員などとして働いている。一方、役場内には、今回の選考で取り組んだ手法を人材育成や職員研修にも生かそうとする動きが出てきている。(佐藤祐理)
 松江市出身の大谷快さん(24)は書店勤務などの経験を生かし、臨時職員として町中央図書館で働く。千葉県船橋市出身で環境関連の財団法人職員だった高野良平さん(27)も町中央公民館の臨時職員に。祖父母が海士町で暮らす山中仁さん(22)は介護福祉士の資格を生かし、町社会福祉協議会のデイサービス部門で高齢者の世話をする。島根大を卒業した川添顕史さん(23)は、町の商品開発研修生という立場で特産品の開発・販売に励み、学生時代に打ち込んだ芝居の経験も生かして劇団を作る夢も描く。「図書館の利用が少ないので、レイアウトを工夫するなどして、町民が気軽に足を運べる場所に」 「世代間交流を通じて人と人をつなぎたい」町民となった今、正職員とは違う立場で、何が出来るかを模索している。
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 町が全国公募を決めたのは、昨年11月。行財政改革のため新規採用を抑えた結果、1998年に94人だった職員数は、ここ数年70人規模に。そこへ、県が古事記編纂(さん)1300年事業への職員派遣を要請。「この際、優秀な人材を全国に募ろう」と、課長らの意見が一致したのがきっかけだった。
 それまで、職員採用に課長らはノータッチだった。だが、今回の選考では「自分たちで人物を見極めたい」と思い、2泊3日で志願者と鍋を囲んだり、町が抱える課題の解決策を考えたりする選考方法を考え出した。浜見優子・健康福祉課長は「集まった希望者は必死だったでしょうが、私たちも必死だった」と振り返る。選考後の反省会で、志願者とひざを突きあわせて課題を検討した手法などを職員の研修に取り入れようと盛り上がり、早速、秋頃の研修での導入に向けて検討している。美濃芳樹・総務課長は「全員一丸となることで、モチベーションもあがった気がする。今後、島の将来を託せる若手をしっかり育てたい」と意気込む。
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 早稲田大政治経済学術院の稲継裕昭教授(自治体人材育成)は同町の選考方法を評価した上で「選考を通して町のファンが増えたのも、一種の町おこしにつながっている」とみている。
 海士町のような手法は、採用人数が多い大規模自治体ほど担当者の負担が増す。だが、愛知県豊田市では、受験者の自己申告の内容を採否の材料とする「自己アピール採用」を2002年度の試験から一部で実施。10年度は受験者592人に対して約30人が同採用で合格。来春の採用に向けた選考も既に入っている。自治体職員は、住民の多様な要望に応えなければならない。画一的な筆記試験や短時間の面接では人物まで見極めるのは難しいのではないか。「海士町方式」が、住民サービス向上を目指す他の自治体のモデルになれば、と思う。

本記事では,海士町における職員採用の取組を紹介.2011年2月15日付の本備忘録でも記録した,同町における2泊3日の「合宿型」による職員採用の取組.本記事を拝読させて頂くと,採用には至らなくても,4名の方が同町へと転居されるという,いわば外部効果もあったことを紹介.
一所で寝食をともにし語り合う,という採用方式を通じて,恐らくは「プラスと考えられることだけでなく,マイナス面に関しても求職者に提供」する「Realistic Job Preview*1の効果も生じ,職場としての同町のみならず,生活の場としての同町にも惹きつけられたのだろうか.たいへん興味深い取組.

*1:今野浩一郎, 佐藤博樹『マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>』(日本経済新聞出版社,2009年)84頁

マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>

マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>