保育所への入所を希望しても入れない待機児童の解消のため、子ども1人あたりの保育所面積を狭めて定員を増やすという国の特例措置を使うことを、兵庫県西宮市が見送ることを決めた。代わりに、保育所の家具整理など運営方法を改善し、来年4月から252人の受け入れ枠を増やす。
 河野昌弘市長が14日、定例会見で発表した。来春の定員は保育所新設も含め、計約550人増となる。今年4月時点で、市内の保育所定員は4700人で待機児童数は279人。さらに市は2013年度をめどに待機児童の解消を掲げる。
 特例措置は国の法改正によるもの。厚生労働省認可保育所の最低面積を、0〜1歳児は1人あたり3.3平方メートル以上、2〜5歳児は1.98平方メートル以上と定めている。特例措置では来年4月から、待機児童の問題が深刻な西宮市など全国の35市区に限り、この基準を自治体独自で狭く設定することを可能にした。幼稚園と保育園の一体化など子育ての新制度が始まるまでの3年間限定の措置。ただ、西宮市は面積を狭めると、「子どもの安全確保や精神状態に問題を生じかねない」として適用を見送ることにした。市の緒方剛・保育所整備グループ長は「今の基準は60年前に定められた古いもの。さらに広くするべきだとの研究結果もある」と話す。市内の保育所の半数以上を占める民間保育所が、反対していることも理由の一つという。
 一方、早期入所を求める保護者も多いため、保育所の運営方法を改善することで定員増加を図る。具体的には、保育所内の家具類を移動してスペースを生み出したり、部屋の区分けを変更したりする。面積緩和した場合と比べて、予算も安くすむという。市役所で今月、1歳の次女の入所を申し込んだ中学教諭の男性(43)は育児休職中で、来年4月からの復帰を考えている。「難しい問題だが、親としては安心して預けたいので面積は守ってほしい」と話す。
 特例措置に消極的な自治体は少なくない。関西では大阪市京都市が対象。大阪市は0〜1歳児の面積を国の基準を上回る5平方メートルと定めているが、担当者は「今後、基準をどうするかは検討課題だが、今すぐ狭めるということはない」。京都市は特例措置を見送る方針で、保育所の増設で待機児童の解消を図るという。(五十嵐聖士郎)

本記事では,西宮市における認可保育所の面積要件緩和に対する方針を紹介.
2011年7月28日付の本備忘録にて記録した,「児童福祉施設最低基準の条例委任」のなかの「保育所の居室面積基」における「厚生労働大臣が指定する地域」では「標準」」*1化の取組.2011年10月24日付の本備忘録では,東京都に位置する市区の考え方の現状を記録.本記事では,同指定区域の一つである西宮市の方針が紹介.同取組の詳細は,2011年11月14日付の同「市長メッセージ」を参照*2
同方針は,次の通り.「本市がこの特例措置を受け入れる場合と受け入れない場合」の「メリットとデメリットを慎重に比較検討」された結果,「入所児童の安全や保育の質の確保」というこれまでの考えを維持することを最重要視」,そして「一定の投資を行うことで面積基準の緩和を行わずに受け入れ児童の拡大を図るという方針」とされた,という.比較検討の過程では,「面積基準の緩和については民間保育所の協力が得られないこと」から,「公立保育所のみでの実施」により「受け入れの拡大は217名」の増加を推計.方や「現行の面積基準を守った上」で「ある程度の投資を行う」場合,「民間・公立保育所合わせて252名の受け入れ拡大が可能になること」,加えて「これに伴う財政効果も高いことが確認」.この結果,同「市は,面積基準の緩和は行わない」とし,ただし「施設の改修費等の補正予算を12月市議会に上程」すること,更に「今回の措置とは別に,保育所整備等による待機児童対策はこれまでどおり取り組」むことで,「平成25年度までに約650名の受け入れ拡大」*3を目指される,という.
地方分権改革の「自由度の拡大路線」*4の一丁目一番地としても位置付けられそうな児童福祉施設の面積基準の緩和.本記事を拝読させて頂くと,2011年10月24日付の本備忘録にて言及したように,「分権化が他方で現場職員の反分権的(集権的)指向を生み出す」とされる「分権化のパラドックス*5として捉えることが適当か,または「行政機関が主体となって,行政運営の適正性,合法性,実効性,経済性等をめざす管理措置」である「行政の自己制御」*6の一つとして,地方分権改革の理念として喧伝される「自己決定」により,規律密度の維持を自己決定される判断こそが,まさに分権化であると捉えることが適切か.考えてみると悩ましい.
改正児童福祉法第45条を受けて,「施設等の基準の条例制定主体が府県であること」こと,加えて,上記「例外に指定された市区」に関しても「指定都市」そして,同記事で紹介されている西宮市の「中核市等を除いては都県が条例を制定する必要」*7とされる.なるほど確かに,「法令の段階で規律密度が充足されていなくても,自治体が立法権を行使して規律密度を充足すれば,法治主義の要請に応えることができる」*8.ただ,そのため出石稔先生は,まさに「主な設置主体である市区町村にとっては,従来,政省令に縛られていた枠づけが,「都道府県条例による枠付け」に代わるだけで,市区町村自身の裁量拡大にはつながらない」*9とも解される.他市に関しても,要経過観察.

*1:厚生労働省HP(政策について分野別の政策一覧子ども・子育て子ども・子育て支援 社会的養護2011年10月)「資料8 児童福祉施設最低基準の条例委任について

*2:西宮市HP(市長の執務室平成23年度市長メッセージ)「〜待機児童対策〜保育所の面積基準は緩和せず、独自の工夫で受け入れ増を

*3:前掲注1・西宮市(待機児童対策〜保育所の面積基準は緩和せず、独自の工夫で受け入れ増を)

*4:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

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*5:嶋田暁文「地方分権と現場改革−分権改革によるインパクトはなぜ乏しいのか」北村喜宣編著『ポスト分権改革の条例法務』(ぎょうせい,2003年)98頁

ポスト分権改革の条例法務―自治体現場は変わったか

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*6:大橋洋一「行政の自己制御と法」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅰ』(有斐閣,2011年)167頁

行政法の新構想 1 -- 行政法の基礎理論

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*7:出石稔「一括法の成立を受けて問われる自治体実務②」『ガバナンス』No.127,2011年11月号,114頁

ガバナンス 2011年 11月号 [雑誌]

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*8:礒崎初仁「法令の規律密度と自治立法権」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)492頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

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*9:前掲注7・出石稔2011年:114頁