国からの徹底した分権などで愛知・名古屋の発展を図る中京都構想で、愛知県と名古屋市は、県知事と名古屋市長を一人が兼務する体制の検討を始めた。司令塔を一本化することで、県と市の二重行政の無駄を省き、愛知・名古屋全体の成長戦略を練る。大村秀章知事と河村たかし市長は「兼務」実現のメリットが大きいと最終的に判断すれば、法改正などを国に働きかける。
 大村知事と河村市長、県と市の担当部局が検討しているのは、愛知県知事が名古屋市長選に、名古屋市長が愛知県知事選に出馬できるほか、この2つの選挙が同時に行われる場合は、両方に立候補できる制度。有権者の選択によっては、愛知県と名古屋市のトップには別々の人物がつく。ただ、兼職が可能な制度さえできれば「いずれはトップが一人になりうる」と想定されるため、県と市の実務面で連携が深まる可能性が高い。
 法改正によって兼務が可能になれば、中長期的な政策を立案する県と市の企画部門の統合や、トップを補佐する副知事、副市長の権限強化も課題になりそうだ。さらに県と市は、国から地方への分権を進めるため、首長や地方議員が国会議員を兼務できる制度もあわせて研究している。大村知事と河村市長は今後、これら「兼務」制度の具体像を詰める方針で、中京都構想を協議する有識者会議「中京独立戦略本部」に提示することも想定している。中京都構想は、大村知事と河村市長が昨年2月の知事・市長選挙で共同公約に掲げた。ただ、大阪市を解体して複数の特別自治区に再編することを柱とする「大阪都構想」と比べ、具体性がないと批判されてきた。
【首長などの兼職】知事と市長の兼職は公職選挙法が禁止。地方自治法には禁止の明文規定はないが、知事や市長が行う職務の詳細を定めているため、抵触する可能性がある。知事や市町村長、地方議員が国会議員を兼ねることは公職選挙法地方自治法がともに禁じている。フランスでは、国会議員と地方議員を兼務する場合があるが、地方の首長職を2つ兼ねることはできない。

 中京都構想実現のため、愛知県知事と名古屋市長を一人が兼務できる体制を県と市が検討していることで、大村秀章知事は10日、「公職選挙法の兼職禁止条項を外すだけで実現する。橋下徹大阪市長が提唱する大阪都構想より早く進む可能性がある」と述べ、意欲を示した。河村たかし市長も「勉強せなかんわということ。県民、市民の視線で考えたい」と検討を認めた。
 大阪市を解体し、複数の特別自治区をつくることを柱とする大阪都構想は、この是非を問う住民投票などの手続きが必要。橋下市長らは2015年度の導入を想定している。大村知事は「中京都は、知事と市長の兼務が認められれば9割がた完成する。兼務体制は大いに検討に値する選択肢だしその気があるから河村さんと話し合っている」と述べた。河村市長は、国会議員と首長らの兼務体制も検討していることに触れ「国会議員の人材不足を解消できる。日本を救う」と話した。知事と市長の兼職は公職選挙法で禁止されている。公選法改正には衆参両院で過半数の賛成が必要。

両記事では,名古屋市と愛知県における「中京都構想」の検討内容を紹介.市長と知事の兼職に向けた制度改正案を検討されている報道.同制度の採用は,第一記事を拝読させて頂く限りでは,「「二重行政」問題の解決」に対する統轄代表の「「大括り化」指向」*1として検討の模様.
「公選職の兼任は,制度的には広く欧州各国で法的には可能」*2とも観察されるなかで,第二記事をもとに,公職選挙法を確認させて頂くと,同法第103条では(下名,皆目,同法に触れる機会がないので,やや不安.同条でよいのかなあ),「兼ねることが禁止されている職にある職とは,各公職ごとに相異し,どの公職についていかなる職を兼ねることを禁止しているかは,各法律の定めるところによらねばならない」*3との理解も示されている.
そこで,自治体の長に関しては,やはり地方自治法に基づくことが適切そうかと思い,同法第141条の長の兼職禁止に関する規定を確認すると,同規定では,「衆議院議員又は参院議員」(同条第1項),「地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び短期勤務職員」(同条第2項)との兼職を禁止を規定する.そのため,同条では,長同士の兼職に関しては,沈黙をしてはいる.一方で,同規定の解釈と運用の際に「参照」*4が求められる,同法第92条の議員の兼職禁止に関する規定への理解では,常勤の職員とは「常時勤務するものであれば,一般職たると特別職たるとを問わない」*5との理解も示されており,ここに長が該当するとも理解ができそう,とはいえ,現行法下,果たして兼職をした場合でも,法に抵触すると解することが適切だろうか.考えてみたい.
なお,第一記事後段の「兼務が可能になれば,中長期的な政策を立案する県と市の企画部門の統合」が課題とも紹介されているものの,これらは,2011年の地方自治法改正による「長の内部組織」の「共同設置」*6に基づき「統合」を図ることも勿論,制度上は可能.まずは,塊より時始めよと,兼職せずとも実施することも一案かと思わなくもないが,やはり,実際の導入は,難しいのだろうか.

*1:山崎幹根「「二重行政」の解決は可能か」『都市問題』Vol.103,2012年4月,57頁(amazonの出版社が「東京市政調査会」と記載.この4月からの同財団が「後藤・安田記念東京都市研究所」へと名称変更されたことが反映されていないようですね.同名称,以前は,「市政調査会」更には「調査会」と略して呼べば,同財団を指していましたが,今後は,どのように略してお呼びすればよいのだろう.少し困る.冒頭二名のお名前から「ごやす研」,後半の用語2つから「とと研」,余り略さず「とうきょうとし研」,場合によっては「とし研」なのかなあ,いずれも何だか略しにくそう.

*2:山下茂『体系比較地方自治』(ぎょうせい,2010年)67頁

体系比較地方自治 (明治大学社会科学研究所叢書)

体系比較地方自治 (明治大学社会科学研究所叢書)

*3:安田充・荒川敦編著『逐条解説公職選挙法上』(ぎょうせい,2009年)879頁

逐条解説 公職選挙法

逐条解説 公職選挙法

*4:松本英昭『新版 逐条地方自治法 第6次改訂版』(学陽書房,2011年)480頁

逐条地方自治法

逐条地方自治法

*5:前掲注4・松本英昭2011年:337頁

*6:前掲注4・松本英昭2011年:1169頁