防火対策の調査をしなかったり危険箇所を是正しない県内のホテル・旅館に対し、県や地元自治体が建築基準法に基づく「勧告」や「命令」を出した例が無いことが15日、分かった。職員不足や適用基準のあいまいさが背景とみられる。火災で宿泊客7人が死亡した福山市のホテルが行政指導を放置していたことが判明し、指導の在り方も問題となっている。
 同法は宿泊施設に対し、排煙設備や防火戸の作動状況などを調べ、地元自治体に定期報告するよう義務付け。結果に基づく改善計画の提出・是正も求め、必要に応じて指導や勧告を行い、従わない場合は刑事告発や建物の使用中止などの命令ができる。県建築指導課によると14日までの集計で、対象となる335施設のうち143施設が未報告、127施設が要是正で、全体の8割超が違法状態。要是正には、建設当時は適法だったが、その後の法改正で現行法には適合しなくなった施設も含まれる。是正内容は防火戸の不作動や窓への内張りなどだった。
 しかし、自治体による対応は指導にとどまり、勧告以上の措置は「過去に聞いた事がない」(同課)という。背景について、県南の市は「通常業務に追われ、未報告の施設には督促状を出す程度。定期査察も年数カ所しかできない」と人手不足を強調。ある県民局担当者は「マニュアルは『重大違反』への勧告を求めているが基準があいまい。施設をどこまで指導するかも明記がない」と話す。同課は「建物の所有者が防火対策に努めるのが大原則」とした上で、「今まで以上に目を光らせ、危険度が高い施設の洗い出しを急ぐ」としている。

本記事では,岡山県等における建築基準法の執行状況を紹介.
同法第10条では「損傷,腐食その他の劣化が進み,そのまま放置すれば著しく保安上危険となり,又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合」,「当該建築物又はその敷地の所有者,管理者又は占有者」に「相当の猶予期限を付け」たうえで,「当該建築物の除却,移転,改築,増築,修繕,模様替,使用中止,使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告」することを特定行政庁たる自治体に認めている.本記事を拝読させて頂くと,主に「人手不足」の背景から,「「勧告」や「命令」を出した例が無い」との現状も報道.「違法建築物に対するモニタリングのコスト,さらにはサンクションを発動するためのコスト」*1を勘案され,同法に基づく「勧告」もまた「伝家の宝刀」となり,その実施が「回避」*2される傾向性も窺えるのだろうか.
「違反対策が建築物の安全を支え」*3るためにも,同法第12条第1項では,所有者には,定期調査の実施と報告を義務付けている.同県の場合,「岡山県特殊建築物定期調査報告の手引き」*4を定め,所有者に「定期調査」を実施し,同県に報告を求められている.そのため,調査と勧告との間では,実施主体の「分散化」*5が図られてもいる.調査と勧告との距離感は,考えてみたい観察課題.

*1:原田大樹「政策実施の手法」大橋洋一編著『政策実施』(ミネルヴァ書房,2010年)58頁

政策実施 (BASIC公共政策学)

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*2:伊藤智基「法執行の評価・見直し」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)248頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

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*3:増渕昌利編著『違反建築ゼロ 住まいの安全・神戸の挑戦』(学芸出版社,2007年)28頁

違反建築ゼロ―住まいの安全・神戸の挑戦

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*4:岡山県HP(分野で探す社会基盤都市計画・建築・用地買収・収用建築審査特殊建築物の定期調査報告(法第12条))「岡山県特殊建築物定期調査報告の手引き」(岡山県土木部都市局建築指導課,平成22年4月1日)

*5:手塚洋輔『戦後行政の構造とディレンマ』(藤原書店,2010年)288頁

戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷

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