• 黒澤良「自治省創設への政治過程」坂本一登, 五百旗頭薫編著『日本政治史の新地平』(吉田書店.2013年),395〜428頁.

日本政治史の新地平

日本政治史の新地平

本日は,『日本政治史の新地平』に所収されている同論攷.昨日,研究費で入手.
自治省には歴史がない.
その創設から総務省に移行するまで約40年間という期間の身近さではない.いわゆる,省史がないのだ.確かに,1992年に地方財務協会が出版した『地方自治百年史』はある.他省であれば標準整備されている,省としての自らが語る歴史文書が不在なのである.一方で,関係者の折々の発言や回顧,自治関係資料は豊かにある.そのため,当事者を中心にご存知である方はたいへんお詳しい方が多いのが自治行政の世界でもある.
でも,自治省創設に関しては不明な部分もある.本論攷でも黒澤先生がご指摘されているように,そのため,「自治省創設については,自治官僚による回想や小論類のほかには,創設にいたる過程の検証を直接のテーマとした本格的な研究は存在しない」(396頁).本論攷では,同省創設に関する通俗的な理解である「逆コース」の「一環との評価」(396頁)に対して,むしろ「阻害要因」(423頁)となった過程を分析(勉強になりました).次の指摘を拝読し,「代弁者」であり「統制者」である両義的な役回をもつとされた*1同省には,その支援者確保が用意ではなかったことに,なるほどと思いました.

地方六団体にしても,中央集権的傾向の復活,すなわち旧内務省の復活には一致して懸念を示している.地方行政を所管する中央官庁は,地方自治体の利害を政府内で代弁する存在である一方で,財源や人事,権限の面で地方自治体を制御しようとする存在ともなりかねない官庁だからである」(404頁)

*1:西尾勝行政学』(有斐閣,1993年)82頁

行政学

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