自治・分権再考

自治・分権再考

本日は,自治体学会が2012年に4カ所で開催された集中講義の内容をまとめられた同書.
自治概念と歴史的変遷,住民自治と協働,地方分権改革,市区町村計画,自治体職員論,道州制構想・大都市制度再編構想,東日本大震災自治,地域振興と原発の8つのテーマを対象に,自治体は「国家を構成する部分団体にすぎない」という前提のもとで,自治体がその「本分を弁え,本分を守り,本分を尽くす」(17頁)ことの可能性と現実的課題が各テーマのなかで講じられています.
下名は,武蔵野市の計画づくりでの経験を講じられた第4講と第2講に強く魅かれました.本書では,市区町村の計画策定を「わが国の地方自治の優れた実績の一つ」であり「良き伝統」(99頁)であると評価します.そして,いわゆる「義務・枠」の見直しに伴う基本構想の義務付け撤廃後も,各市区町村では長期計画の策定を停止・撤廃するのではなく,「引き続き何らかの計画づくりを続けてほしい」との希望が示されています.このような市町村の計画策定の経験があるからこそ,後段での講じられている震災後の「復興計画の策定主体は被災市町村とすべき」との「主張」(209頁)にも結びついているようにも思われました.
もちろん現存の市区町村計画を是認されているわけでありません.策定される計画の質も課題として.第4講では「細かい配慮」(117頁)に関する事項も含めて,随所に指摘や提案がされています.例えば「財源を有限であるという前提を明確にして計画づくりをする習慣をつける」(103頁)との指摘からは,計画内容の現実性や確実性を述べられているようです.一方で,「市区町村政がみずから取り組む政策・施策・事務事業を計画事項とするのは当然として,さらに地元企業に期待する事項,商工会や農協といった地元業界団体に考えてほしいと期待する事項,地域自治組織に実践してほしいと期待する事項,一人ひとりの地域住民に期待する事項を盛り込んだうえで,市区町村だけではできない部分で都道府県や国に期待する事項まで含めるべき」(107〜108頁)とも述べられています.
つまり,行政体としての自治体以外の主体に対する「要望」の掲載を断言されています.これは,自治体の計画では実施可能な事項を掲載すべきであり,いわば自治体の領分を超えた事項の計画への掲載を自粛することが適切であるとの見解もあると理解していたため,少し驚きもしました.ただ改めて考えてみますと,この指摘は行政側が自明と捉える制約や領分を所与とせず常に見直すこともまた,「本分」を「弁え」「守り」「尽くす」ことに結びつくためであるからなのかなあ,とも思いました.
また,本書では「市区町村職員が持ち合わせていない種々の専門知識を有している住民が多種多様に存在している」のが地域であり,その「住民が保有している多種多様な専門知識と知恵」(56頁)を「動員」(57頁)することも述べられています.そして,「住民自治の側面こそが最も重要」(34頁)であるからこそ,「本分」の領分ともいえる自治体計画は,行政側が既存の領分を箍とせず,住民が「本分」の領分を自ら決めることを強く主張されています.それゆえに,現場知優位を結果的に敷衍されている次の指摘には,なるほどと思いました.

大学教員は一般のサラリーマンと異なって,平日は毎日必ず大学に出勤しなけれならない人々ではなく,曜日や時間帯によっては,平日の昼間であっても地元の活動に従事することが可能な人々であって,会議に慣れている人々,議事録や提言書の文章を書く作業も厭わない人々として,広く活用されていただけのことである.どこの自治体であれ,その住民のなかからこの種の要件を満たす人々を探し見つけ出せばよいだけのことで,必要なのは大学教員でない」(57〜58頁)