本日は,2013年4月7日付の本備忘録でも記録しました,今年度学生さんが卒業研究に取り組むテーマへの下名なりのお勉強用として,同書.
2000年に東京都が行なった行政評価では,「事業の抜本的な見直しが必要」との評価を「宣告された」(4頁)「江戸東京博物館とその分館の江戸東京たてもの園」(15頁).本書の前半では,江戸東京たてもの園がその評価を受けて「案内員の委託費がカット」(24頁)されます.しかし,いわば,意図せざる結果ともいえる,ジブリによる来客者の増加.このように従来の業務委託による案内員が減る一方で来客者は増加する状況に,同園が選択した対応策は「ボランティアに頼る」(24頁)ものでした.そして,同選択が契機となり,同園の運営に参加と協働が根付きはじめて,「ミュージアムがコミュニティになる」(100頁)過程が描かれています.
本書は,このような東京の一つのミュージアムの事例に止まらず,「コミュニティ・ミュージアム」という視点から見たときの,現行のミュージアムに関する法制度とそこで働く人(学芸員,事務員)の課題が重点的に書かれています.そのため,ミュージアムのいまとこれからを考えるためには,大変勉強になりました(学生さんにも読んでもらおう).
終章では東京都美術館の現状から「アート・コミュニティ」(215頁)を目指す姿を描きます.本書でも,2013年4月7日付の本備忘録で読んだ『美術館へ行こう (岩波ジュニア新書)』で描かれた,日本の公立「コレクションがほとんどない」(211頁)現状を指摘されています.一方で,本書では指摘に止まらず,このような現状から「発想を変えていく必要」(211頁)を提案されています.『美術館へ行こう (岩波ジュニア新書)』では,各館が所蔵する作品の相互貸借の現状に根ざす,美術館同士でのネットワークの面白さを感じていたため,次の指摘には,なるほどと思いました.

まずコレクションがほどんとないこと.これを世界中にコレクションがあると考えてはどうでしょう.世界のマスターピースの東京でのショーケースとなる.これに徹して,やわらかくおもしろい切り口で紹介する.これは大事な役割です.さらに開き直ると,21世紀的な「非収奪型」のミュージアムと考えることもできます.コレクションではなく,「コネクション」で勝負する.こう考えることもできます.」(211〜212頁)